救急部門での急性腹症の評価における非造影CTの診断精度

Journal Title
Diagnostic Accuracy of Unenhanced Computed Tomography for Evaluation of Acute Abdominal Pain in the Emergency Department
JAMA Surg. 2023;158(7):e231112. doi:10.1001/jamasurg.2023.1112

論文の要約
【目的】
急性腹症患者に対する画像検査として、腹部および骨盤部造影CT検査は、最も一般的かつ適切な検査であると考えられるが、合併症リスク(ヨード造影剤過敏症の既往や重篤な腎障害)から検査が差し控えられる場合がある。救急部での急性腹症患者を対象とした造影or非造影CTの診断精度を比較するランダム化比較試験は、倫理的側面から存在しない。先行研究として、狭い範囲の診断(虫垂炎、憩室炎など)に焦点を当てているものはあるが、明確な参照基準がないなどの問題があった。本研究では、急性腹症を有する救急部患者において、dual-energy技術を用いて造影CT画像から単純画像を作成し、造影と非造影腹部骨盤部CTの診断精度を比較した。

【方法】
本試験は、2017年4月1日から4月22日までにA施設で、急性腹症の評価のために、dual-energy 造影CTを受けた救急患者202人を対象とした、多施設(A〜C施設)共同後向き診断精度研究である。盲検化された3人の放射線科医のうち少なくとも2人が処置可能な所見の存在または推奨について独立して同意した所見を参照基準とした。3施設(A〜C施設)の6人の異なる放射線科医(3人の専門医と3人の研修医)が、得られた非造影CT検査を解釈した。参加者は、dual-energy CTを受けた腹痛を有する救急患者の連続サンプルであった。主要評価項目は、一次診断(患者の腹痛を説明する可能性が最も高い診断)に対する非造影CTの診断精度、副次評価項目は、処置可能な二次診断(患者の管理に影響を及ぼす可能性の高い偶発的所見)に対する非造影CTの診断精度とした。

【結果】
対象患者は201人(女性108人 対 男性93人)で、平均年齢は50.1歳、平均BMIは25.5であった。非造影CTの全体的な精度は、70%であった(指導医:68~74%、研修医:69~70%)。指導医は研修医よりも一次診断の精度が高かったが(82% vs 76% ; 95%CI 1.26-2.67)、実用的な二次診断の精度は低かった(87% vs 90% ; 95%CI 0.35-0.93)。これは、一次診断の偽陰性(38%対62%;95%CI 0.13-0.41)は少なかったが、二次診断の偽陽性(63%対37%; 95%CI 1.26-3.54)は多かったためである。偽陰性(19%)および偽陽性(14%)の結果は一般的であった。全体的な精度に関する相互評価者の一致は中等度であった(κ係数 0.58)。

【Implication】
本研究のstrengthとして、倫理的観点から、救急部での急性腹症患者を対象とした造影or非造影CTの診断精度を比較するランダム化比較試験は実施出来ない、腹痛を有する救急患者の一般集団を対象としてdual-energy 造影CTを用いて、非造影CTの診断精度を検証しようとしたことが挙げられる。 Limitationとしては、dual-energy CT検査を受けた人のみの連続コホートであり、造影CTが必要と判断されたpopulationのみが対象であり、非造影CTのみで良いと判断されたpopulationは元々除外されており、選択バイアスのリスクが残る。さらに、全ての急性腹症に対してgold standardにはなり得ない造影CTを参照基準とすること自体も不十分であると言える。さらにサブスタラクション技術で作成された画像が単純CTと比較し、画質が荒いという点や、臨床状況が伏せられている点が実臨床とは乖離している点が挙げられる。以上から上記結果を本邦の実臨床に外挿は出来ないと考える。

文責 富田将司/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科