重症アルコール関連肝炎の死亡率に対する予防的抗菌薬の効果

Journal Title
Effect of Prophylactic Antibiotics on Mortality in Severe Alcohol-Related Hepatitis
A Randomized Clinical Trial
Alexandre Louvet, JAMA. 2023;329(18):1558-1566

論文の要約
【背景】
重症アルコール性肝炎患者は、細菌や真菌感染のリスクが高く死亡率も高いが、治療の選択肢は限られている。経口プレドニゾロンは診療ガイドラインで推奨されているが、治療中に25~30%の感染の合併が報告されている。細菌の組成物が肝臓の炎症に寄与するとされ、動物実験において、抗菌薬投与がアルコール性肝障害を予防することが示されている。そこで本研究は、アモキシシリン・クラブラン酸塩(ABPC/CVA)を予防的に投与することで、重症アルコール性肝炎患者の予後を改善させるか検証した。

【方法】
本研究はフランスとベルギーの25施設で行われた無作為化二重盲検試験である。対象は18歳から75歳、1日のアルコール摂取量が40g/日以上(女性)50g/日以上(男性)の多量飲酒、最近⻩疸が発症したアルコール関連肝炎の臨床診断がついている、生検による組織学的にアルコール関連肝炎の確認ができている、Maddreyスコアが32以上、MELDスコアが21以上という全ての基準を満たす患者とした。患者はABPC/CVA + Predonine群とPlacebo + Predonine群に1:1にランダムに割り付けた。主要アウトカムは60日全死因死亡割合とした。サンプルサイズはPower=80%, type I error =0.05, 各群140例とし、主要アウトカムの解析にはIntensionToTreat(ITT)を用いた。

【結果】
2015年6月から2019年5月の間に297人が研究対象となり、除外された5人を除く292人がランダム化された。合計284人が主要アウトカム、副次アウトカムの分析の対象となった。主要評価項目である60日全死因死亡割合は17.3% (24/142) vs 21.9% (31/142) (95%信頼区間-14-4.7)であった。副次評価項目である90日追跡時の全死因死亡割合、180日追跡時の全死因死亡割合、60日追跡時の感染症発生割合、60日追跡時の肝腎症候群発生割合、治療反応性(7日目のLilleスコア<0.45)、肝機能が大幅に改善した患者の割合(60日時点でMELDスコア<17で生存している患者と定義)で両群に有意差はなかった。

【Implication】
多施設で行われた二重盲検RCTであり、ランダム化前に除外された人数は5人と少なく、ITT解析で生存分析を行っていることが強みといえる。一方、抗菌薬にABPC/CVAが選択されている根拠は不明であり、他の抗菌薬での結果は不明である。サンプルサイズ設計で主要アウトカムの効果量を75%減少と仮定しているが、過去の研究などを踏まえても非現実的であり、検出力不足が懸念される。ステロイドが標準治療として使用されているが、その効果の結論はでていない。そこで、ステロイドと抗菌薬の交互作用を含めた検証が出来る要因デザインが理想的であると考える。

文責 一柳咲佑美・富田将司・南三郎

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科