院内発症敗血症患者における集中治療室入室のタイミングと院内死亡の関係性

Journal Title
Association between the timing of ICU admission and mortality in patients with hospital-onset sepsis: nationwide prospective cohort study

論文の要約
【目的】
敗血症において、発症から72時間以内の介入が患者の予後に重要な影響を与えることをいくつかの研究が示唆している。これをもとにSurviving Sepsis Campaign guidelineでは、6時間以内の集中治療室への入室を推奨している。しかし、これは個々の患者の特異性を考慮しておらず、6時間以内の集中治療室への入室が敗血症患者に利益をもたらすかどうかは依然として議論の余地がある。そのため、本研究は、院内発症の敗血症患者の死亡率と集中治療室入室までの時間の関連性を検証した。

【方法】
本研究は、2019年9月1日から2020年12月31日の期間に、19の3次もしくは大学病院が参加しているKorean Sepsis Alliance registryに登録された患者データを使用した多施設前向きコホート研究である。19歳以上のSepsis-3の定義に当てはまる院内発症の敗血症によって集中治療室に入室した患者を組み入れ、救急外来から直接集中治療室に入室した症例は除外した。Rapid Response Systemチームが敗血症と診断してから6時間以内に集中治療室に入室した患者群を早期入室群、6時間以降に入室した患者群を遅延入室群とした。主要評価項目を院内死亡割合とし、副次的評価項目を入院期間、集中治療室入室期間、退院先と設定した。解析は、年齢、初回のSOFAスコアで調整した多変量ロジスティック回帰分析と、以下の共変量(年齢・性別・BMI・併存疾患・Clinical Frailty Score・SOFA score・敗血症性ショックの有無・初回乳酸値)を用いて傾向スコアマッチングを1:1で行い、その後、多変量解析を追加した。

【結果】
1395人の患者がincludeされうち639人が集中治療室に入室しなかったなどの理由で除外され、残りの756人が早期入室群、遅延入室群にそれぞれ470人、286人分けられた。その後各群を傾向スコアマッチングで調整し、各群239人が割り付けられた。患者背景について、上記で示した共変量は全て標準化平均差0.1未満となり、両郡のバランスが取れていることが示唆された。傾向スコアマッチング後、オッズ比1.35(95%信頼区間0.93-1.96)となり、年齢、初回SOFA score、傾向スコアで調整を行った後のオッズ比1.38(95%信頼区間0.94-2.02)となった。サブグループ解析では、入室当日に人工呼吸器、血管収縮薬を使用した患者、敗血症性ショックの患者では、早期入室群で院内死亡率が改善する傾向となった。副次的評価項目である入院期間、集中治療室入室期間、退院先については、両群で統計学的有意差は認めなかった。

【結論】
院内発症の敗血症患者において、早期(6時間以内)に集中治療室に入室することは、それ以降に集中治療室に入室することに比較して、院内死亡を改善しない。

Implication
敗血症ガイドラインで推奨する6時間以内の集中治療室への入室のエビデンスがないなか、本研究が検証した点に価値がある。しかし、早期入室とそれ以外での患者特性のかたよりを傾向スコアマッチングにより調整しているが、指定された変数のみでは比較可能性は担保できていないことは実臨床の感覚から明白であるし、生存者バイアスも懸念される。また、著者らは結論でサブグループの結果を踏まえた6時間以内に集中治療室への入室を推奨する集団を記載しているが、2群間の調整前の集団での比較であり、比較可能性はより損なわれており仮説の域を出ない。

文責:柴田泰佑/南三郎

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科