重症市中肺炎へのヒドロコルチゾンの有用性
Journal Title
Hydrocortisone in Severe Community-Acquired Pneumonia
N Engl J Med 2023; 388:1931-1941 DOI: 10.1056/NEJMoa2215145 PMID: 36942789
論文の要約
【背景】
下気道感染症は全世界的に罹患者が多く、2019年には4億8900万例が報告されており、中でも人工呼吸器を要するほどの重症例では死亡率が30%とも言われている。これまでにも市中肺炎に対する糖質コルチコイドの有用性に関して7つのランダム化比較試験が行われてきたが、死亡率の減少をもたらすかについては結論が出ていなかった。本研究はICU入室中の重症市中肺炎に対して、早期のヒドロコルチゾン投与が28日後までの死亡率を減少させるかをあきらかにする目的で行われた。
【デザイン】
多施設、並行群間、二重盲検、プラセボ対照群RCTで、フランス国内の31のICUで行われた。対象は、重症市中肺炎と診断されICUに入室した年齢18歳以上の患者とされた。インフルエンザ肺炎、敗血症性ショック、挿管希望のないものは除外された。患者は、ヒドロコルチゾン(200mg/日で開始され総投与日数8日~14日間の間に漸減された)の静脈内投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は28日全死亡とされた。サンプルサイズはプラセボ群の死亡割合を27%とし、効果量を相対リスク低下を25%、α0.05、β0.2として1200人と見積もられた。
【結果】
予定されていた2回目の中間解析時点(2015年10月28日から2020年3月11日)での800人で患者登録が中止された。28日全死亡割合はヒドロコルチゾン群、プラセボ群でそれぞれ6.2% (3.9-8.6%) vs 11.9% (8.7-15.1%) 、p=0.006だった。また、副次評価項目のもともと人工呼吸を要さなかったが28日後までに挿管に至った患者は、18.0% (40/222) vs 29.5% (65/220) (HR 0.59 [0.40-0.86])、もともと血管作動薬を要さなかったが28日後までに開始に至った患者は、15.3% (55/359) vs 25.0% (86/344) (HR 0.59 [0.43-0.82]) であった。
【Implication】
本研究の強みとして、二重盲検化されたランダム化比較試験で、かつ盲検化が薬剤のパッケージを外部委託することによるもので信頼性が高いこと、主要評価項目が死亡というハードアウトカムであること、ステロイドが有用である病態を含めた背景因子が両群で差がなく内的妥当性が高い。一方で限界として、予定されたサンプルサイズ計算の仮定と実際の死亡割合に乖離があることや、コロナのパンデミックのため事前に計画されていない研究中断がなされているためαエラーや過大な効果量が示めされている危険がある。また敗血症性ショックや誤嚥性肺炎、インフルエンザ肺炎などが除外されたため、ICU入室となった肺炎患者5498人のうち割付対象は800人と少ないことや、フランス一国での検証ため一般化可能性が低い点が挙げられる。今後は多国籍での検証や起因菌、炎症状態による個別での検証に注目する必要がある。
文責 玉井瑛/芥川晃也/南三郎
このサイトの監修者
亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明
【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科