重症ICU患者の急性期のカロリー/タンパク摂取目標がガイドラインと比べて低値の方が良いのか検証した多施設open-label, parallel-group RCT

Journal title
Low versus standard calorie and protein feeding in ventilated adults with shock:
a randomized, controlled, multicentre, open-label, parallel-group trial (NUTRIREA-3) Lancet Respir Med. 2023 Mar 20

背景
重症患者の急性期では, 臓器不全, 低酸素血症, 代謝異常, 内分泌機能不全, 異化亢進による筋肉消耗などにより, カロリー/タンパク消費が増加する事が知られている。加えて, カロリー/タンパクの欠乏が,感染症, ICU-acquired weakness, 人工呼吸器離脱までの期間延長, ICU滞在期間延長, 死亡などと関連する事が示されてきた。しかし,近年のランダム化比較試験の結果は、早期のフルカロリー栄養およびタンパク投与を支持する結果を示していない。むしろ、早期栄養のカロリー、タンパクが従来の摂取目標より少ないほうがよい可能性が示唆されている。本研究は、重症ICU患者の急性期において、カロリーだけでなくタンパクを標準摂取目標より低くすることで予後が改善するか検証した。

方法
本研究は、フランスの61施設で行われた多施設オープンラベルランダム化比較試験である。対象は、侵襲的機械換気が最低2日以上持続することが想定され, 血管作動薬がショックに対して使用され,挿管後24時間以内に栄養が開始出来ると予測される者とされた。慢性腸疾患など日常的に特定の栄養を要していた者, Dying patient, DNAR, ICU入室時に治療制限の決断をしている者などを除外した。「Calorie: 6 kcal/kg/day Protein: 0.2-0.4g/kg/day」をLow group, 「Calorie: 25kcal/kg/day Protein: 1.0-1.3 g/kg/day」をStandard groupとした。ICU入室~DAY7までを急性期と設定した。DAY8以降は両群共に「 Calorie: 30kcal/kg/day Protein: 1.2-2.0 g/kg/day 」に目標変更した。主要評価項目は, ①DAY90での全死因死亡割合, ②ICU退室可能となるまでの期間の2つとした。
サンプルサイズ設定は、NUTRIREA-2試験における死亡割合, 生存者の平均ICU滞在期間を使用し、standard groupの90日死亡割合を43%、効果量を5%、α4.9%、β0.2から3044人と見積もった。Primary Outcomeに関して, DAY90死亡率はχ^2検定を用い, ICU退室可能となるまでの期間はFine-and-Gray modelを使用した。

結果
2018年7月~2020年12月に最終的に1525人がLow group, 1519人がStandard groupに割り付けられた。年齢は両群共に約66歳, 男女比は両群共に67% : 33%程であった。SAPSⅡは約60点, SOFA scoreは約10点であり, ICU入室時の急性病変は, 急性呼吸不全が約45%, Shockの原因はSepsisが60%弱を占めていた。主要評価項目である90日死亡割合は, Low group vs High groupで, 41.3% vs 42.8% Absolute difference -1.5%, 95% CI -5.0 to 2.0; p=0.41と差は認めなかった。 ICU退室可能となるまでの期間においては, 8.0 days (IQR 5.0-14.0) vs 9.0 days (5.0-17.0)(hazard ratio 1.12, 95% CI 1.02 to 1.22; p=0.015)とLow groupの方が早かった。副次的評価項目では,DAY28死亡,ICU死亡割合,院内死亡割合 には差は認めなかった。一方、嘔吐, 下痢, 腸管虚血, 肝不全の累積発生割合においてはLow groupの方が頻度が少なかった。

Implication
本研究は, 61施設の多施設RCTであり, カロリー目標も先行研究より遵守できている。しかし、主要評価項目は2つあり、多重比較の補正が行われていない点、オープンラベル試験で、人工呼吸のウィーニングプロトッコールなどなく、情報バイアスが懸念される。また、エントリー時点での栄養状態の記録がなく、結果の異質性も課題である。
Lowカロリー/タンパク目標が, Standardと比して安全面で劣らず, 一部合併症が少ない可能性が示唆されたといえる。今後はmeta-analysisなどで更なる検証や異質性の検証が期待される。

文責 山田健二/南三郎

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科