院外心停止の成人患者へのCaと生理食塩水の静注・骨髄注による心拍再開(ROSC)への効果

Journal title
Effect of Intravenous or Intraosseous Calcium vs Saline on Return of Spontaneous Circulation in Adults With Out-of-Hospital Cardiac Arrest

論文の要約
・背景
2018年のデンマークのデータでは、心肺停止後の30日目の生存割合はわずか16%であり、除細動の適応でない波形の患者のそれは10%未満で、過去10年間で改善していない。心肺停止に対する薬理学的介入は限られている。強心作用と昇圧作用のあるカルシウムは心肺停止患者に対して有効性が期待されたが、1985年に2件の小規模のランダム化試験では効果が証明されなかった。それ以降の観察研究では相反した結果が報告されている。しかし、一部の地域では心肺停止に対してカルシウムが投与されている。本研究では心肺停止患者に対するカルシウムの効果について検証した。

・方法
本研究は、デンマークの行政区の1つであるCentral Denmark Region(人口約130万人)で実施された二重盲検ランダム化比較試験である。対象は、18歳以上で院外心肺停止し、少なくとも1回エピネフリンを投与されたものだった。外傷性心肺停止、妊婦は除外された。エピネフリン投与直後にカルシウム5mmol投与される介入群と同じタイミングに生理食塩水9mg/mlを投与される対照群に1対1に無作為に割りふられた。主要評価項目は心肺蘇生を必要としない20分以上の自己心拍再開で、副次評価項目は30日後の生存、30日後の神経学的予後が評価された。神経学的予後についてはmodified Ranking scalesで0〜3を良好な神経予後とした。当初のサンプルサイズは430人としたが、270人がエントリーされた時点で修正され、プラセボ群の20分以上の自己心拍再開を18%、介入群を27%、両側αを0.05、βを0.2として674人に変更された。いくつかの感度分析とベイジアン解析も行われた。

・結果
2021年4月15日に独立データ安全性モニタリング委員会が、383例の非盲検データの中間解析においてカルシウム投与群の有害性の徴候に基づき試験の早期中止を勧告し、運営委員会は試験を中止した。
2020年1月20日から2021年4月15日の期間に1221人の心停止患者が発生し、そのうち391人が解析された。193例がカルシウム群、198例が生理食塩水群であった。全体の平均年齢は68歳、114例(29%)が女性、75%が非ショック適応、目撃のある心停止が60%だった。Primary outcomeである20分以上の持続的自己心拍再開は介入群で19%(37/193)、プラセボ群で27%(53/198)であった[リスク比:0.72(95%信頼区間(CI):0.49〜1.03)]。またsecondary outcomeである30日後の生存に関しては介入群で5.2%(10/193)、プラセボ群で9.1%(18/198)[リスク比:0.57(95%CI:0.27〜1.18)、リスク差:-3.9%(95%CI:-9.4〜1.3)、p=0.17]で、30日後の神経学的予後が良好な患者に関しては3.6%(7/193)、プラセボ群で7.6%(15/197) [リスク比:0.48(95%CI:0.20〜1.12)、リスク差:-4.0%(95%CI:-8.9〜0.7)、p=0.12]という結果であった。

Implication
主要評価項目に代理アウトカムではあるもののハードアウトカムを設定し、2重盲検化され、救急ユニットによる層別化がなされている点、ITT解析がなされ、フォローアップロスがいない点は強みである。サンプルサイズやアウトカムについても途中変更され、弱点とも考えられるが、本研究をより現実的なものに変更されたという意味では強みとして考えられる。外的妥当性に関しては、ドクターが同乗する病院前救急システムであること、一国であることは限界である。また、早期中止された研究で検出力不足が懸念されるが、サブグループ解析では異質性はみられず、secondary outcomeでも点推定値はCa投与群で害が示唆され、結果に頑健性がみられる。以上から現時点で、臨床的に有益である場面以外でのCa投与は慎むべきであると考える。

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文責 牛田雄太・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科