全身麻酔時の術中催眠暗示が 術後の痛みとオピオイド量に及ぼす影響

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Effect of therapeutic suggestions during general anaesthesia on postoperative pain and opioid use: multicentre randomised controlled trial

論文の要約
・背景
術後の疼痛管理としてオピオイドが一般的に使用されるが、副作用、合併症が投与量に応じて発生することが知られている。 オピオイドの過剰投与、オピオイド中毒は 欧米で社会的に問題となっている。 そのためオピオイド投与量を減らすための方法の1つとして薬物投与以外の補助的アプローチが必要とされている。いくつかの研究で、全身麻酔下に聴覚刺激に対する応答があることが示唆されており、術中の催眠暗示による術後疼痛軽減が試されてきた。しかし、メタアナリシスでは、その効果は証明されていない。しかし、これらの先行研究は古く小規模であり麻酔管理法が統一されていないなど多くの問題があった。そこで、術中の催眠暗示が術後のオピオイド使用量を減らせるか多施設にて検証した。

・方法
本研究はドイツの5施設の3次医療機関にて行われた5施設での共同、前向き、盲検下、無作為化比較試験である。対象は18歳から70歳までの全身麻酔下で1−3時間の手術が予定されているものとし、ASA-PSスコア4以上の重度の既往症のある患者や、術語に集中治療、人工呼吸器を要する患者を除外した。全身麻酔後にBGMと肯定的な内容を含む催眠暗示を流すイヤホンを装着する介入群と、無音のイヤホンを装着する対照群に1:1に無作為に割り付けた。術中の麻酔は、一般的な吸入麻酔、筋弛緩薬、鎮静剤、鎮痛剤を使用したバランス麻酔でBISモニターを装着した上で、麻酔深度40−60でコントロールした。術後、術直後および15分おきに2時間NRSを看護師が確認し、NRSが3以上の患者はオピオイドを患者本人或は看護師が静脈注射した。
Primary outcomeは術後24時間のオピオイド必要量で評価した。Secondary outcomeは術後24時間までの15分おきのNRSの平均値、NRSの最大値、術後のNSAIdsの使用量、見当識、不安さ、術後悪心嘔吐、麻酔の覚醒時間などが含まれた。サンプルサイズはメタアナリシスに含まれた7つの研究を参考に、効果量を0.3、パワーを80%、両サイドαを0.05として、合計368人と見積もった。サブグループ解析を手術の部位や疼痛の程度が低い手術などで行った。解析は解析には線形もしくはロジスティック混合効果モデルを使用した。固定効果には治療グループ、術後疼痛の強弱、術中のオピオイド、比オピオイド、クロニジンの容量とし、ランダム効果は治療施設とした。

・結果
合計395人の患者を催眠暗示音声を聞かせる群(191人)と、無音のプレイヤーをつける群(194人)に無作為に割り付けた。主要評価項目である術後24時間以内のオピオイド使用量については、モルヒネ換算して平均2.8MME(Morphine equivalent(mg))の有意な低下がみられた。(95%CI 1.2 to 4.3 MME)。オピオイド使用量の34%の低下がみられた。
術後24時間以内にオピオイドを必要とした患者は対照群が155/194人(80%) にたいして介入群が121/191人(63%)と有意な低下がみられた。対照群では、術後24時間以内にオピオイドを必要とする患者が26%多かった。
術後24時間後の疼痛に関して、NRS>3の患者の割合が対照群が119/194人(61%)に対して介入群が81/191人(41%)と有意な低下を認めた。(p<0.001)NNTは5.3だった。

implication
術中催眠暗示は非侵襲的かつ安価であり実現が容易にかかわらず本試験では術後オピオイド使用量を1/3減らすことが出来た。非薬物的なオピオイドの代替手段の可能性がある。
内的妥当性に関しては、本試験は過去の研究をもとにサンプルサイズを設定し、適切な解析がなされている点、脱落はすくなく、隠蔽化も適切にされていた点はよいが、術後オピオイドを患者自身が投与した施設(2施設)と、看護師が投与した施設(3施設)が混在している点、今回の効果が言葉によるものかBGMによるものかわからない点が問題である。外的妥当性に関しては、心臓手術など侵襲性の高い手術、長時間の手術をカバーしていない点 、硬膜外麻酔の使用者は除外されている点、ドイツ1国でなされたものであり、術中催眠暗示に関しての先行研究も欧米の研究が多くを占めるため、言語や文化背景の異なる日本において適応できるかは不明な点がある。
本研究はBritish Journal of Medicineのクリスマス特集に掲載されたものであるが、非常に重要な仮説であり、今後は患者満足度を含めた患者中心アウトカムを含めた追試がなされていくことを期待する。

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文責 上野健・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科