COPD急性増悪で入院した患者に対するステロイド投与量の個別化の検討

Journal Title
Personalized Variable vs Fixed-Dose Systemic Corticosteroid Therapy in Hospitalized Patients With Acute Exacerbations of COPD: A Prospective, Multicenter, Randomized, Open-Label Clinical Trial

論文の要約
・背景
COPD急性増悪で入院した患者に対するステロイドの全身投与は、治療の失敗を減らし、入院期間を短縮すると考えられているが、最適な投与量は不明である。一律の投与量でステロイド投与をするよりも、患者毎に個別化された投与量を用いることで、より最適な治療ができる可能性がある。

・方法
中国の4つの基幹病院にCOPD急性増悪で入院した40歳以上の患者に対して5日間のステロイド全身投与を行う際に、固定用量群(プレドニゾロン40mg/日相当)と個別化用量群に1:1でランダムに割付を行った。用量の個別化のために、Anthonisen基準、COPD Assessment Test Score、以前のプレドニン使用量、炎症マーカー、血液ガス所見の計5項目を用いた投与量スケールが開発され、その点数によりプレドニン容量を決定した。プライマリーアウトカムは複合的な治療の失敗(入院中の治療失敗(機械換気、ステロイド・アミオフィリンの追加・抗菌薬のエスカレーション)、退院後の治療失敗(180日以内の死亡または再入院))、セカンダリーアウトカムは入院期間、医療費とした。サンプルサイズは固定用量群の失敗割合を60%、効果量を20%、両側 αを5%、1-βを80%、フォローロスを20%として、各群119人と見積もった。

・結果
固定用量群、個別化用量群にそれぞれ124人、計248人が割り付けられ、固定用量群の48.8%、個別化用量群の27.6%が治療に失敗した(相対リスク 0.40 ; 95% CI, 0.24-0.68 ; P = .001)。入院中の治療失敗は、個別化用量群で有意に少なかった(10.6% vs 24.4% ; P = .005)。中期的な治療失敗、有害事象、入院期間と医療費に関しては、2群間の有意差は見られなかった。治療に失敗した場合でも、個別化投与群では固定用量群と比較して、病勢のコントロールのために追加投与されたステロイドの量や期間はより少なかった。個別化投与群のうち、プレドニゾロン40mg/日相当量以下の投与を受けた患者で44.4%の治療失敗があったのに対し、それより多い投与を受けた患者の治療失敗は22.9%にとどまった(P = .027)。

Implication
COPD急性増悪に対して、40mg/日など一律の投与量でステロイド全身投与を行うことは臨床上よく見られるだろう。今回のRCTでは、日本人と人種的に近く、体型も似ている中国の医療機関にて、個別化用量でのステロイド投与がCOPD急性増悪の治療失敗を減らすかもしれないと結論している。しかし本研究には複数の問題点がある。まず本研究はオープンラベルでアウトカムがソフトエンドポイントを含む複合アウトカムであり、患者の自覚症状が病勢評価に重要なCOPDの治療において、患者・医師・評価者のいずれにも種々の情報バイアスが生じる可能性がある(ただしこのことに関しては、割付を知らない医師2名が治療の失敗を判断することで対応している)。患者の組み入れの段階でも、exclusion criteriaにより多くの患者が除外された根拠は不明確で、投与量の個別化に用いられたスケールに組み込まれた5つの項目の選択の根拠も薄弱である。個別化をしたとしても、結局プレドニゾロン 40mg /日相当量以下の投与をした患者では、固定用量群と治療失敗の率はほぼ変わらない結果となっている。また一方で、プレドニゾロン60mg/日相当量を超える投与を受けた患者では、有害事象の増加なく治療失敗率が低下している。そのため、本研究の治療効果の差が個別化によるものか、高用量によるものか不明である。
以上から、今後は用量の個別化に使用されたスコアの信頼性・妥当性、Patient reported outcome、用量の違いによる治療効果が検証されることを期待する。

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文責 森川敬太・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科