高出血リスク患者におけるPCI後のDAPTについて

Journal Title
Dual Antiplatelet Therapy after PCI in Patients at high Bleeding risk

論文の要約
背景
薬剤溶出性ステント留置後1ヶ月間のDual Antiplatelet Therapy(DAPT)は、長期の治療期間と比べ安全性を担保しつつ出血リスクを軽減することが示唆されている。しかし、高出血リスク患者における適切なDAPTの期間は不明である。今回、シロリムス溶出ステント (Ultimaster™)によるpercutaneous coronary intervention(PCI)を受けた高出血リスク患者を対象に、1ヶ月間のDAPT療法と長期のDAPT期間の臨床転帰を比較した。

方法
本研究は、薬剤溶出型冠動脈ステント留置後の出血リスクが高い患者におけるDAPTの適切な投与期間を評価するために行われた多国籍非盲検無作為化非劣性試験である。対象は急性/慢性冠症候群に対して生分解性ポリマーシロリムス溶出性ステント(Ultimaster™)を用いたPCIが成功し、高出血リスク基準を1つ以上満たす患者とした。PCI後30-44日時点でDAPTから抗血小板薬単剤に切り換える短縮療法群と、そのまま2ヶ月以上DAPTを継続する標準治療群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は3段階「(1)臨床有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合アウトカム) (2)心臓/脳有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合アウトカム) (3)大出血/臨床的に重要な非大出血」に順位化され、無作為化から335日時点での累積発生割合とした。大出血の定義はBleeding Academic Research Consortium(BARC)のtype3/5(Hgb3g/dl以上の低下もしくは輸血を要する出血/致死的な出血)とし、臨床的に重要な非大出血はBARCtype2/3/5とした。臨床有害事象と心臓/脳有害事象ではPer-Protcol集団での非劣性試験を行い、「選択基準を満たさなかったもの」「無作為化14日以内にプロトコルの治療を開始できなかった患者」を除外し非劣性試験では両郡のリスク差に関する95%両側信頼区間の上限値が臨床有害事象で3.6%、心臓/脳有害事象で2.4%を除外できるものとした。大出血/臨床的に重要な非大出血では無作為化をおこなった患者全てを含むIntention-to treat集団で優越性試験を行った。サンプルサイズは4100人は(1)の全有害事象のそれぞれの発生を割合を12%とすると90%の検出力、(2)の心臓/脳有害事象はそれぞれの発生割合を8%とすると80%の検出力、(3)短縮療法群4.2% 標準治療群6.5%とすると90%の検出力を得られる計算となり、最終的に脱落患者を考慮し4300人とした。

結果
4434例のper-protocol集団において、臨床有害事象は短縮療法群で165例(7.5%) 標準療法群で172例(7.7%)に発生した(difference, -0.23% ; 95%CI, -1.80 to 1.33,非劣性P<0.001)。心臓/脳有害事象が発生したのは,短縮療法群で 133 例(6.1%), 標準療法群で 132 例(5.9%)であった(difference, 0.11% ; 95%CI,-1.29 to 1.51 ; 非劣性P=0.001)。intention-to-treat集団の4579例のうち、大出血/臨床的に重要な非大出血は、短縮療法群で148例(6.5%),標準療法群で211例(9.4%)に発生した(difference, -2.82% ; 95%CI, -4.40 to -1.24 ; 優越性P<0.001)。

Implication
本研究ではUltimaster™によるPCIを受けた出血リスクが高い患者では、1ヶ月間のDAPT短期療法は、6ヶ月以上の標準治療期間と比較し、純臨床有害事象および主要心臓・脳有害事象のリスクは劣らず、大出血・臨床的に重要な非大出血のリスクが下がったと報告した。主要評価項目3つに対する検定の補正がされておらず、多重比較の問題が懸念されるが、階層的に評価することで左記リスクを減らす努力がなされていること、実臨床に即したプラグマティック試験であるため内的妥当性が高い。しかし、オープントライアルで主要評価項目がソフトアウトカムであるため情報バイアスの危険がある。特にBARC type3-5に差はあまりなかったがBARC type2の差が大きかった点などから左記のバイアスが懸念される。急性冠症候群患者(47%)と慢性冠症候群(40%)とほぼ同数が組み入れられていることで、一般化可能性が高いと考えられるが、その反面、結果の異質性があると考えられる。非劣性マージンが大きく、実際のイベント発生割合も予想より小さかったため、臨床的な解釈を難しくしている。標準治療郡で経口抗凝固薬を内服している患者はDAPTを期間が3ヶ月と短いことも結果に異質性がある可能性を示唆している。外的妥当性として、本試験に利用されたステントがステント内で血小板やフィブリンの接着を阻止する機能が付加されている生分解性ポリマーシロリムス溶出性ステントを利用している点や、組み入れられた患者が肥満患者が多い点は一般化可能性を損ねている。本試験は、出血高リスク患者のPCI後の適切なDAPT期間を検証するためにデザインされた初めてのプラグマティック試験であり、臨床的意義が大きい。本試験結果からは出血高リスク患者のDAPT期間が1ヶ月に短縮していくことが予想されるが、上記のような研究限界もあり、今後の追加試験にも注目していく必要がある。

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文責 栗田 正幸/南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科