米国の医療従事者に対する mRNA COVID-19 ワクチンの効果について

Journal Title
Effectiveness of mRNA Covid-19 Vaccine among U.S. Health Care Personnel
T. Pilishvili et al. NEJM

論文の要約
背景
米国では2020年12月からPfizer-BioNTech社のBNT162b2ワクチンおよびModerna社のmRNA-1273ワクチンの接種が開始された。これらのワクチンは第3相臨床試験では有効性・安全性が示されている。しかし、無作為化比較試験では、慢性疾患を持つ人や、人種や民族のマイノリティグループなどの不均衡にCOVID19の影響を受けるサググループに対しては検出力の問題から有効性を評価できていない。今回米国の医療従事者を対象にワクチンの有効性を検証するためにtest-negative case-control studyを行った。

方法
期間は2020年12月28日から2021年5月19日まで、米国25州の33施設で行った。症例群は、医療従事者でCovid-19に類似した症状が1つ以上あり、PCR検査またはその他の核酸増幅検査、抗原検査でSARS-CoV-2が陽性となったものとした。対照群は、症状にかかわらずPCR検査が陰性の集団が対象となり、症例群と登録場所・テストを行った週でマッチングが行われた。既感染者(該当検査日の60日以上前にがコロナ陽性だったものと定義)は除外された。ワクチン効果は1からオッズ比を引いた値に100を掛けた値とした。サンプルサイズは80%の検出力でVaccine Effectiveness推定値の精度の範囲を0.3〜0.6、ワクチン接種率は30〜70%と仮定し、60〜190人のSARS-CoV-2が陽性である症例群とその症例1人に対して対照3人を必要とした。それぞれの情報はアンケートやインタビューによって取得した。統計は条件付きロジスティックス回帰分析を用いて行い、交絡因子は次のものを調整した。年齢、人種、民族、少なくとも1つの基礎疾患または重度のCovid-19の危険因子の存在、職場でのCovid-19患者との密接な接触、職場以外でのCovid-19患者との密接な接触。

結果
症例群は1482人、対照群は3449人が登録された。参加者の4分の3以上(症例の76%、対照の75%)が、重症のCovid-19のリスクを高める基礎疾患を少なくとも1つ持っていた。肥満と喘息を除いて、症例と対照の間で個々の疾患や危険因子の分布に違いは認められなかった。1回目の接種を受けてから0〜9日目の期間では,ワクチンの有効性は12.8%(95%信頼区間[CI],-9.4〜30.5)であった。1回目の接種を受けてから10〜13日後のワクチン効果は36.8%(95%信頼区間、14.8〜53.1)であった。
任意のワクチンを部分接種(1回)した場合の調整後の有効性は79.7%(95%CI,74.1〜84.1)で,BNT162b2ワクチン(77.6%,95%CI,70.9〜82.7)とmRNA-1273ワクチン(88.9%,95%CI,78.7〜94.2)の両方で同等であった。完全に接種(2回)した場合の調整後の有効性は90.4%(95%CI,87.0〜92.9)で,2種類のmRNAワクチンのいずれでも同様であった。2回目の接種後14日以上経過した時点で評価した有効性も同様の結果となった(88.9%,95%CI,84.7〜92.0)。年齢(50歳未満と50歳以上),人種と民族,基礎疾患の有無,患者との接触の程度に応じて定義されたサブグループでも同様であった。
免疫不全状態にある部分接種者と完全接種者を合わせたグループでは、ワクチンの有効性は39.1%(95%CI、-45.0〜74.4)であった。

Implication
BNT162b2ワクチンとmRNA-1273ワクチンの両方が、医療従事者の症候性Covid-19に対して高い有効性を示した。そして、今回の研究結果では重症のCovid-19のリスク因子を1つ以上有する成人、肥満、高血圧、喘息、糖尿病を有する成人、50歳以上の成人において、mRNAワクチンの完全接種が有効であることが示された。しかし、免疫不全者や高齢者において、ワクチンによる効果がどの程度持続するかは不明であり、今後そこに焦点を当てた研究が必要であると著者は結論づけている。
今回の試験は第3相試験と同様の結果であった。研究デザイン自体、ワクチン接種の効果を評価するのに標準的な方法を採用し、それぞれの交絡も適正に補正されている点は内的妥当性が高い。しかし、外的妥当性に関しては、肥満大国である米国の試験であること、SARS-CoV-2の様々な変異株が出現し、感染状況が刻々と変化している状況を踏まえると、この結果を現状に外挿できる保証はない。今後もさらなる報告に注目していく必要がある。

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文責 谷口 峻彦・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科