敗血症ショック患者におけるバソプレシン投与開始時のカテコラミン投与量、乳酸値およびショック持続時間と死亡率との関連について

Journal Title
Association of Catecholamine Dose, Lactate, and Shock Duration at Vasopressin Initiation With Mortality in Patients With Septic Shock
Crit Care Med. 2021 Sep 24.PMID: 34582425

論文の要約
・背景
Surviving Sepsis Campaignのガイドラインでは、敗血症性ショックの第一選択薬としてノルエピネフリンが推奨されている。非カテコールアミン系薬剤であるバソプレシンに関しては、血圧上昇効果があり、カテコールアミン系薬剤の使用量を減らすと考えられているが、予後を改善させるかについては一定の見解がえられていない。しかし、心房細動の合併症が少ないなどのメリットもあり、米国では敗血症性ショックに対する使用頻度が増加傾向にある。これまでの研究からバソプレッシンの開始タイミングが結果に影響することが示唆されている。そこで、本研究はバソプレシンを投与された敗血症性ショック患者において、バソプレッシン開始タイミングと死亡との関連を評価した。

・方法
2012年1月から2017年11月の間に、Cleveland Clinic Health System内の8つの病院で、内科・外科・神経・その混合集中治療室(ICU)で行われた多施設後ろ向き観察研究である。対象は敗血症性ショックの定義を満たし、ノルエピネフリンが開始となった18歳以上のものとした。本研究の主な目的はバソプレッシン開始時の乳酸濃度・カテコラミン投与量・ショック発症からの時間と院内死亡との独立した関連性を評価することとされた。副次評価項目は院内およびICUでの死亡、ICU滞在期間、腎代替療法期間、血管作動薬使用期間、いずれもショック発症後28日目の生存・無症候日数とした。主要アウトカムを評価するために、多変量ロジスティック回帰を行い、共変量調整後の3つの主要変数(バソプレシン投与開始時のノルエピネフリン量、バソプレシン投与開始時の乳酸濃度、バソプレシン投与開始時のショック発症からの時間)と院内死亡の関係をオッズ比(OR)および95%CIで評価した。対象とした3つの主要変数に加えて、年齢、性別、人種、体重、免疫不全、ICUの場所、抗生物質の使用、ヒドロコルチゾンの使用、体液バランス、輸液ボーラス量、人工呼吸器の使用、AKIの有無、Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、Acute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIIスコアを共変量としてモデルに組み入れた。関心のある上記3つの変数と院内死亡との関係が変化するブレークポイントを決定するために、それぞれの変数と院内死亡の関係の傾きの変化点を求めた。その存在の有無の判定には尤度比検定を用い、その位置は最小のベイズ情報量規準によって同定し、ブートストラップ法で内部検証をおこなった。

・結果
1,610名の患者が対象となり、APATCH III 109.0±35.1、SOFA 14.0±3.5で、41%の患者が入院期間中に生存した。バソプレシン投与開始時の乳酸濃度の中央値(四分位範囲)は3.9 mmol/L(2.3〜7.2 mmol/L)、ノルエピネフリン量は25 μg/min(18〜40 μg/min)であり、ショック発症からの投与までの経過時間は5.3時間(2.1〜12.2時間)であった。
院内死亡との関連においては、バソプレシン投与開始時のノルエピネフリン量が60μg/minまでは、10μg/min増加するごとに院内死亡のoddsが20.7%上昇したが(調整オッズ比、1.21[95%CI、1.09-1.34])、ノルエピネフリン量が60μg/min(ブレークポイント)を超えるとその関連性は認められなかった(調整オッズ比、0.96[95%CI、0.84-1.10])。バソプレッシン開始時の乳酸濃度との関連は濃度が高いほど院内死亡が上昇したが、ショック発症からの経過時間には院内死亡との関連はみられなかった。これらにはブレークポイントはみられなかった。

Implication
敗血症性ショックでバソプレッシンが使用された患者において、バソプレッシン開始時のノルエピネフリン濃度、乳酸値が低いほど病院死亡が低かったと報告した。
本研究は後ろ向き観察研究であり、上記のbreakpointなどはcherry pickingすることも可能なデザインであること、バソプレッシン使用と死亡との間には時間依存性交絡因子が存在すること、ショックからバソプレッシン開始までの時間経過には生存者バイアスがあること、登録されている患者の多くが単一施設に偏っており外的妥当性に問題があること、調整した変数間で相関が強く予想され多重共線性が懸念されること、残余の交絡因子(ハイドロコートンの使用率、第3の昇圧剤など)が存在することなど問題が多い。また、特殊な評価方法を採用しており、結果の妥当性を評価することが困難である。以上からバソプレッシンを早期に併用するメリットを支持する根拠としては不十分と考える。この仮説の検証にはバソプレッシン早期投与群、遅延群、プラセボの早期・遅延群でのファクトリアルデザインでのRCTなどの前向き試験が必要と考える。

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文責 名和 宏樹・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科