COVID-19によるARDSとその他のARDSにおける腹臥位療法の比較:国際多施設観察比較研究

Journal Title
Prone Position in Coronavirus Disease 2019 and Noncoronavirus Disease 2019 Acute Respiratory Distress Syndrome: An International Multicenter Observational Comparative Study
Crit Care Med. 2021 Sep 24. PMID: 34582426

論文の要約
・背景
腹臥位療法はAcute Respiratory Distress Syndrome(ARDS)の治療に広く用いられていて、昨今のCoronavirus disease 2019(COVID-19)流行下でもSurvinving Sepsis Campaign COVID-19 分科会が推奨し、COVID-19によるARDSに腹臥位療法が用いられている。しかし、COVID-19によるARDS(以下、C-ARDS)とその他のARDSの腹臥位療法に対する生理学的反応の違いや、腹臥位療法に反応する患者をどう特定するのか、その反応が良い予後につながるのか、complianceやrecruitablityが違うとその反応も変わるのかはまだ分かっていない。本研究はC-ARDSでの腹臥位療法の反応を定量化し、C-ARDSとARDS間の違いを理解し、予後に関連する因子を見つけることを目的として行われた。

・方法
本研究は後ろ向きコホート研究で、伊・英・仏の7つの医療施設で、19歳以上のARDS患者のうち人工呼吸管理中に12時間以上の腹臥位療法を受けた者を対象とし、診療録から挿管直後・1度目の腹臥位療法開始前2時間以内・仰臥位へ戻る前2時間以内での臨床データを収集した。病因(ARDS かC-ARDSか)と、P/F ratio 20mmHg以上の改善の有無、complianceの高低というカテゴリを事前に規定した。カテゴリ内の比較はMann-Whitney U有意差検定、腹臥位と仰臥位での違いはWilcoxonの符号順位検定で、カテゴリ間差はPearsonのΧ2検定を用いて調べた。単変量ロジスティック回帰モデルで有意であった変数を用いて、多変量ロジスティック回帰モデルを構築した。データの欠損はランダムと仮定し補完はせず、有意差検定にはα=0.05を用いた。

・結果
840人がスクリーニングされ、そのうち腹臥位療法が行われた412人から36人を除外した376人が対象となり、うち220人は2020年2月-5月に挿管・人工呼吸管理をされてCOVID-19のPCRが陽性となった患者、156人は2017年12月-2020年5月に挿管・人工呼吸管理をされたCOVID-19以外のARDSの患者であった。C-ARDS群ではARDS群に比較して挿管から腹臥位開始までのP/F ratio低下が有意に大きかった(-13.5mmHg vs 0mmHg; p=0.002)。挿管から最初の腹臥位療法を行うまでC-ARDS群は2.0日でARDS群は1.0日と有意差があった(p=0.03)。最初の腹臥位療法の継続時間は両群で16時間と同程度で、酸素化の改善も同程度であった(全体でP/F ratio 61.5mmHg上昇)。全体で77%が腹臥位療法でP/F ratio 20mmHg以上の改善を認め、2群間で有意差はなかった(ARDS群で78%、C-ARDS群で76%)。腹臥位療法開始が遅いことと酸素化改善とには負の関係にあったが、この効果は24時間以降でほぼ一定であった。多変量ロジスティック回帰モデルで、P/F ratioの20mmHg以上改善と独立して相関していたのは、腹臥位療法前のP/F ratio(OR: 0.89 95%CI: 0.85-0.93)、挿管から腹臥位までの時間(OR: 0.94 95%CI: 0.89-0.99)であった。C-ARDSの予測死亡割合は20%、実際の死亡割合は43%、ARDSでは予測死亡割合55%、実際の死亡割合47%であった。両群それぞれでcomplianceの高低で生存割合に差はなかった。死亡と独立して相関する因子は、年齢(OR:1.03 95%CI: 1.01-1.05)、予測院内死亡割合(OR:1.013 95%CI:1.005-1.023)、挿管から腹臥位療法までの時間(OR:1.040 95%CI:1.002-1.084)、腹臥位療法開始までP/F ratioの変化(OR:0.97 95%CI: 0.95-0.99)であり、COVID-19かどうか(OR:0.68 95%CI: 0.43-1.08)は死亡と相関はなかった。

Implication
この研究では、腹臥位療法でARDS患者のおよそ80%でP/F ratioが20mmHg以上上昇すること、この上昇が生存率改善の独立した因子であること、挿管後24時間以内に腹臥位療法を受けた患者でより大きいP/F ratio改善が見られたこと、挿管から腹臥位療法開始まで遅れるほどP/F ratio改善が小さくなり死亡リスクが上昇したことが示された。先行研究で挿管から腹臥位療法までの期間と死亡の相関が示されていたことと一致する結果だった。
研究限界として、本研究が後ろ向き観察研究であり臨床目的で記録されたデータを利用しているため、腹臥位療法前後のデータ記録時間が実際とは異なる可能性や、腹臥位療法の開始が臨床医の判断で決定されるため組み入れバイアスが生じる可能性、またパンデミック時のリソースの違いにより腹臥位療法開始の判断が異なる可能性があることを著者らは指摘している。
本研究のテーマが、エビデンスがはっきりしていないCOVID-19によるARDSにおける腹臥位療法に注目している点で臨床的意義が大きい。しかし、臨床疑問が3つ以上設定され、様々なデザインが混在し、多くの結果が提示されているため、何を比較しているのかはっきりせず、その解釈や臨床への応用は困難である。以上から、本研究はあくまで腹臥位療法を行ったC-ARDS患者の呼吸・循環のパラメータの推移を見た記述研究として捉えるのがよいと考える。

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文責 藤森 大輔・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科