成人 Covid-19 入院患者に対するバリシチニブとレムデシビルの併用

Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19
The adaptive covid-19 treatment trial-2

背景
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対するレムデシビルの有効性は前試験(The adaptive covid-19 treatment trial-1:ACTT-1)で示されたが依然として死亡率が高い。サイトカイン・ストームといわれる制御不能な炎症が重症度と関連していると考えられており、この炎症を抑えることで臨床転帰が改善することが期待されている。
バリシチニブは選択的Janus kinase (JAK) 1 and 2阻害薬であり、COVID-19発症時にみられるサイトカインを抑制することや酸素化を改善することがこれまでの研究で示されている。本研究はバリシチニブをレムデシビルと併用することにより臨床転帰を改善するか検証した。

方法
本研究は8カ国67施設を通じて、成人 Covid-19 入院患者に対してレムデシビルにバルシチニブを併用する効果を評価した二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験(The adaptive covid-19 treatment trial-2;ACTT-2)である。併用群にはレムデシビル(最長 10 日間)とバリシチニブ(最長 14 日間)を投与した。また対照群にはレムデシビル(最長 10 日間)のみを投与した。
ACTT-1と同様に毎日8カテゴリーの重症度の順序尺度(注*)が記録され、Primary outcomeは回復(カテゴリー1,2,3までの回復)までの期間と定義された。重要な副次的評価項目は 15 日目の臨床状態とした。
(注*) 1. 退院(活動制限なし) 2. 退院(活動制限and/or在宅酸素あり) 3. 治療が不要な入院4. 治療が必要な入院(酸素なし) 5. 酸素吸入が必要な入院 6. 非侵襲的換気又は高流量酸素が必要な入院 7. 侵襲的人工呼吸器or ECMOが必要な入院 8. 死亡

結果
2020年5月〜7月の間に1033 例がランダム化された(515 例が併用群、518 例が対照群)。バリシチニブの併用投与を受けた患者は、回復までの日数(中央値)が 7 日(95%信頼区間 [CI] 6〜8)であったのに対し、対照群では 8 日(95% CI 7〜9)(回復率比 1.16、95% CI 1.01〜1.32、P=0.03)だった。副次評価項目である15 日目の臨床状態改善のオッズが 30%高かった(オッズ比 1.3、95% CI 1.0〜1.6)。高流量酸素投与または非侵襲的人工呼吸管理を受けていた患者では、回復までの日数の中央値は併用群で 10 日。対照群で 18 日であった(回復割合比 1.51、95% CI 1.10〜2.08)。ステロイドの使用が許可された223人の患者では、回復割合比は1.06(95% CI 0.75〜1.48)であった。28 日死亡割合は併用群で 5.1%、対照群で 7.8%であった(死亡のハザード比 0.65、95% CI 0.39〜1.09)。重篤な有害事象の頻度は併用群のほうが対照群よりも低く(16.0% 対 21.0%、差 -5.0 パーセントポイント、95% CI -9.8〜-0.3、P=0.03)、新たな感染症についても併用群の方が低かった(5.9% 対 11.2%、差 -5.3 パーセントポイント、95% CI -8.7〜-1.9、P=0.003)。

Implication
主要評価項目である回復までの期間は全体で1日と大きな影響はないようにみえた。しかし、副次評価項目は多重比較の調整がなされていないものの、挿管や酸素投与の回避、人工呼吸期間の短縮がみられている。血栓や感染の重大な合併症に関しては評価に必要なサンプル数ではないものの、バリシチニブ併用群で少ない傾向にあった点は注目に値する。
また、本研究は免疫抑制薬であるステロイド使用が交絡となりうるが、ステロイド併用が事前に規定されている点、ステロイド併用が死亡割合を改善した研究(RECOVERY)の発表前に行われたこともあり実際のステロイド使用は10%程度だったため大きな影響はないと考える。
バリシチニブはステロイドよりも選択的に免疫を抑制することで副作用の面でも優れていることが期待される。以上からバリシチニブ併用は非常に有望な治療選択となりうる。しかし、バリシチニブは薬価が高く一般化可能性に問題があり、ステロイドと費用対効果を含めた比較やステロイドも併用するかなどまだ解決すべ課題がある。今後の検証に期待する。


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科