急性外傷性四肢疼痛に対して、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症剤、もしくは両薬剤併用の鎮痛作用:一重盲検ランダム比較試験

Journal Title
Acetaminophen, Nonsteroidal Anti-inflammatory Drugs, or Combination of Both Analgesics in Acute Post-trauma Pain: A Randomized Controlled Trial   PMID: 33145862 DOI: 10.1111/acem.14169

論文の要約
<背景>
ERの外傷患者では約50%が疼痛を訴えるといわれている。いくつかの鎮痛薬を併用することで、その相加作用や相乗作用により疼痛を改善し得るとされている。そのため鎮痛薬を複数併用することは個々の使用量を減らし、副作用を最小限に抑える可能性がある。これまでに併用されてきた鎮痛薬としては, Nonsteroidal Anti-inflammatory Drug(NSAID)とアセトアミノフェンがあり、理論的にはこれらの薬剤は補完的に作用し、いわゆるマルチモーダルな鎮痛として知られている。
この相互作用は動物実験や健康な被験者での研究で示唆されているが、急性外傷後の疼痛に対しては十分に研究されていないのが現状である。
本研究では外来フォローとなった四肢外傷後疼痛に対してアセトアミノフェンとNSAID併用がそれぞれの単剤使用に比して有効であるかを検証した。

<方法>
本研究は一重盲検ランダム化比較試験であり、チュニジアのモナスティル県に位置するFattouma Bourguiba大学病院で実施された。
参加者の選定基準は18歳以上で、24時間以内の四肢外傷後に、鎮痛薬を要するVisual Numeric Scale4点以上の疼痛を訴える患者である。除外基準は開放骨折、多発外傷、頭部、腹部、胸部外傷、入院症例などの重症症例やアセトアミノフェンやNSAIDsの常用患者、アレルギーや薬剤過敏、消化管出血など薬剤投与が禁忌となる患者である。また、妊婦、心不全、肝硬変、腎不全、嚥下障害を認める患者やVisual numeric scaleで疼痛を評価できない、意思疎通や誓約書へ同意ができない、もしくは拒否した患者も除外された。
患者は1:1:1でランダム化され、アセトアミノフェン群(アセトアミノフェン1000mg、1日3回、 7日間)、NSAID群(ピロキシカム20mg、1日2回、 7日間)、併用群(左記両方を7日間)に割り付けられた。
主要評価項目はプロトコール外の鎮痛薬使用とされた。副次評価項目では受診日と7日目でのVisual Numeric Scaleの変化、ERへの再受診、副作用、Likert scaleによる患者満足度が評価された。
3つの群間比較はANOVAで行われp<0.05で有意差ありとされた。結果の分析はITTで行われた。サンプルサイズ計算は先行研究からアセトアミノフェン群における鎮痛剤の追加使用が必要となる割合が20%とし、α値=0.05、検出力=90%としアセトアミノフェン群に対して併用群で絶対リスクが10%低減されると仮定し1500名とされた。またランダム化の後に10%の追跡不能となる患者を加味して1650名をサンプルサイズとした。

<結果>
2017年3月から2018年9月までの20か月間で1650名が選定され、18名が除外、1632名がランダム化された。ランダム化後に追跡不能となった患者がおり、最終的にアセトアミノフェン群で503名、NSAID群で492名、併用群で509名が分析された。
ベースライン特性では群間差を認めず、平均年齢が37歳前後と若年であること以外には特記すべき特徴を認めなかった
主要評価項目の追加鎮痛薬を要した患者はアセトアミノフェン群で11.4%、NSAID群で17.7%、併用群で9.8%であり、アセトアミノフェン群と併用群では有意差を認めず(p=0.41)、NSAID群では両群に比して有意差をもって多い割合となった。
副次評価項目では再受診率に関しては主要評価項目と類似する結果となり、患者満足度に関してもNSAID群でやや悪い結果となった。副作用では心窩部痛を訴える患者が多く、アセトアミノフェン群に比してNSAID群および併用群で有意差(p<0.001)をもって多い結果となった。Visual Numeric Scaleの変化に関しては3群間で有意差を認めず、それぞれ65%程度の減少を認めた。

Implication
著者らは軽度から中等度の痛みを伴う四肢外傷でERから帰宅する患者に対してはアセトアミノフェン単剤が第一選択になると結論づけている。
本試験のバイアスとして考えられるのは以下の点である。
1.単盲検試験であり2剤の鎮痛薬が処方された場合には追加鎮痛薬の使用をためらってしまうかもしれず、逆に1剤の鎮痛薬のみ処方されている場合は追加鎮痛薬を使い易い状況が考えられ、主要評価項目における群間差は過小評価されている可能性がある。2.結果については3群比較による多重検定の調整がされておらずαエラーの可能性がある。3.NSAIDの薬剤選択で外傷への適応が標準的に推奨されていないピロキシカムを採用していることは外的妥当性を損ねる。以上から実臨床でアセトアミノフェンが第一選択と結論づけるには盲検化および他の種類のNSAIDを利用した外的検証が必要と考える。

編:高橋盛仁/増渕高照/南三郎

post284.jpg


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科