院外心停止患者に対する亜硝酸ナトリウム投与による生存率への影響:第II相SNOCAT試験

Journal Title
Effect of Out-of-Hospital Sodium Nitrite on Survival to Hospital Admission After Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2021; 325(2):138-145.

論文の要約
■背景
 院外心停止後循環が再開した患者の80%以上が退院前に死亡しており、 主な合併症および死因は神経学的損傷といわれている。 亜硝酸は虚血-再灌流後の細胞障害やアポトーシスを阻害する働きがあり、 多くの動物モデルで心停止後の生存率を改善することが示されている。 また、 心停止後の初期の再灌流期において生存率改善に関連する血清亜硝酸濃度は10-20μMということが動物モデルでいわれており、 2018年に発表された第II相open-label試験では、 院外心停止患者に対し亜硝酸ナトリウム45mg/60mgを投与すると、 投与後10-15分以内に血清亜硝酸濃度を10-20μMにすることができることが明らかとなった。
今回第II相試験として、 院外心停止後の蘇生中に、 亜硝酸ナトリウム45mgと60mgを投与することで、 入院までの生存率が改善されるかどうかランダム化比較試験が行われた。

■方法
 本研究は2018年2月8日から2019年8月19日にワシントン州の救急センターで実施されたランダム化比較試験である。
対象は18歳以上の静脈路ないし骨髄路が確保できる昏睡状態の心停止患者で、 亜硝酸ナトリウム45mg投与群、 60mg投与群、 プラセボ群に1:1:1に割り付けられ、 投与サンプル番号もランダム化した。
 主要評価項目は入院までの生存率である。
副次評価項目は退院までの生存率、 ICU入室日数、 24時間後・48時間後の累積生存率、 退院時の神経学的ステータス、 再停止、 再灌流、 ノルエピネフリンの使用などである。
 サンプルサイズは検出力80%、 α=0.05とし、 プラセボ群で40%の入院を見込めるとし、 各介入群とプラセボ群との間で8%増加すると推定した。
解析は、 主要評価項目は片側検定、 副次評価項目は両側検定で行った。 そのほか事後解析ではLog-rank検定を用いて死亡までの時間をKaplan-Meier曲線にて可視化した。

■結果
 対象は2264名であり、 そのうち1502名が参加した。 5名が研究キット番号の欠落で除外され、 最終的に1497名のうち、 500名が45mg投与群、 498名が60mg投与群、 499名がプラセボ群にランダムに割り付けられた。
 主要評価項目である入院までの生存率は、 プラセボ群44%に対し、 亜硝酸ナトリウム45mg投与群41%、 60mg投与群43%と有意差の無い結果となった。
 副次評価項目は、 退院までの生存率、 ICU入室日数、 24時間後・48時間後の累積生存率、 退院時の神経学的ステータス、 再停止、 再灌流、 ノルエピネフリンの使用などすべての項目で有意差がなかった。 そのほか、 追加二次解析、 事後解析、 サブグループ解析でも有意差のない結果となった。

Implication
 今回の第II相試験では、 複数の動物モデルと第II相試験の結果をもとに行われたが、 院外心停止患者への亜硝酸ナトリウム投与はプラセボ群と比較して、 45mg、 60mgともに入退院までの生存を有意に改善しなかった。
 本論文の強みとしては、 二重盲検化された多施設のランダム化比較試験であり、 サンプルサイズ計算はほぼ想定を満たしている大規模研究である点である。 一方内的妥当性の問題点としては、 一部の救急隊員から一時救命処置を受けた278名の患者群が今回参加していないため選択バイアスが生じている可能性がある。
 今後の展望としては、 亜硝酸ナトリウムの投与濃度を高用量にする選択肢などが考えられるが、 高用量の亜硝酸ナトリウムは血圧低下、 神経障害の危険性もある。 動物モデル、 第II相試験を踏まえて行われた本研究にて、 亜硝酸ナトリウム投与が主要・副次評価項目だけでなく、 サブグループ解析を含めたすべての解析で差がみられず結果に頑健性があり、 今後の追加研究に繋げるのは難しいだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科