中等症-超重症のCOPDに対する2つの用量のICSの3剤併用療法

Journal Title
Triple Inhaled Therapy at Two Glucocorticoid Doses in Moderate-to-Very-Severe COPD
DOI: 10.1056/NEJMoa1916046

論文の要約
<背景>
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療は、症状緩和、増悪頻度の減少、死亡率の低下を目的に、段階的に強化されていく。吸入ステロイド(ICS) + 長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA)+ 長時間作用型β2受容体刺激薬(LABA)の3剤併用療法は、増悪頻度の減少、症状緩和、肺機能、QOLに関して2剤併用療法よりも良い傾向があることが示されている。ICS + LABA8 LAMA + LABA で症状があったり、増悪を認める場合には、3剤併用療法が推奨されている。 COPDに対する、ICS + LAMA + LABA の3剤併用療法は、これまで1つのICS用量についてのみ検討されており、低用量ICSでの検討が不足していた。今回の研究では、2種類のICS量+ LAMA + LABA と、ICS-LABA、LAMA + LABA を比較した。

<方法>
26か国(アメリカ、中国、日本、ヨーロッパ、南アフリカ、南アメリカなど)で行われた2重盲検ランダム化比較試験である。患者群は40-80歳以上の成人で、 症候性のCOPD(COPD Assessment score 10点以上)、少なくとも2種類以上の吸入薬使用、気管支拡張薬使用前のFEV1%が70%未満、1秒量が予測肺活量の25-65%未満の条件を満たす者が組み込まれた。標準量ICS3剤併用群はブデソニド320μg/日+グリコピロレート(グリコピロニウム臭化物として18μg/日)+ホルモテロール(ホルモテロールフマル酸塩水和物9.6μg/日)、半量ICS3剤併用群はブデソニド160μg/日+グリコピロニウム+ホルモテロール、2剤配合群(LAMA + LABA)はグリコピロニウム+ホルモテロール、2剤配合群(ICS + LABA)はブデソニド(320μg/日)+ホルモテロールでそれぞれ1日2回2吸入で52週間の治療期間とした。なお10年以内に喘息と診断された患者は除外された。
主要評価項目は、中等度-重度な増悪の年率、副次評価項目は初回の moderate/severeな増悪までの期間、24週間の平均でrescue medicationを使う頻度のベースからの変化、 St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ) の点数が低下した患者の比率(24週時点でベースと比較して4点以上の低下)、severeな増悪の年率、なんらかの原因による死亡までの期間とされた。3剤併用療法で主要評価項目が相対的に15%減少すると仮定して、検出力93%、α=0.05で8400人のサンプルサイズが必要となった。主要評価項目の解析負の二項回帰分析で行われた。

<結果>
2015年6月30日-2019年7月26日の期間に登録された16033人のうち、8588人がランダム化された。そのうち2157人が標準量ICS3剤併用群、2137人が半量ICS3剤併用群、2143人がLAMA + LABAの2剤併用群、2151人がICS + LABAの2剤併用群に割り付けられた。主要評価項目では標準量ICS3剤併用群と LAMA + LABA で率比0.87[95% CI:0.69-0.83]、標準量ICS3剤併用群と ICS + LABA で率比0.76[95% CI:0.79-0.95]、半量ICS3剤併用群とLAMA + LABA で率比0.75[95% CI:0.69-0.83]、半量ICS3剤併用群とICS + LABA で率比0.86[95% CI:0.79-0.95]と標準用量・半量とも3剤配合吸入薬は、2剤配合吸入薬に比べ増悪頻度を有意に改善した。
副作用に関しては、尿路感染は増加したものの、低血糖や下肢切断のリスクは変わらなかった。副作用についてはICS使用群とICS非使用群で検討されており、重症肺炎発症率はICS使用群で有意に高かった。

Implication
本研究では、中等症-重症のCOPD患者に対して、ICSの標準用量・半量ともに含む3剤併用療法が2剤併用療法より有意に増悪の頻度を減らすことが示された。
内的妥当性に関して、良い点としては、多国籍、多施設の大規模RCTで二重盲検が行なわれている点が挙げられる。研究デザインは公開され、内容自体もしっかりとしているものの、スポンサー企業が研究に参加し、かつ、筆頭研究者のCOI(conflict of interest)があるため、どれほどの影響があるか不明な点は弱みと考える。外的妥当性として、一般に使用されている薬剤である点、薬価も高価ではないため広く利用可能である点が考えられる。
以上から、今後、中等度以上のCOPDに対して3剤併用療法が普及していくものと思われる。
ただし、本研究結果からは3剤併用療法のICSの容量、吸入方法や回数などに関する優劣は不明である。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科