合併症のない小児虫垂炎患者の治療成功率と障害日数を、抗菌薬による保存治療群と腹腔鏡手術群とで比較する

Journal title
Association of Nonoperative Management Using Antibiotic Therapy vs Laparoscopic Appendectomy With Treatment Success and Disability Days in Children With Uncomplicated Appendicitis
Peter C. Minneci et al. JAMA.2020;324(6):581-593. PMID:32730561

論文の要約
<背景>
虫垂炎は成人・小児の両方で急性腹症として手術を要する代表的な疾患であり、米国では毎年18万人以上の成人と7万人以上の小児が毎年虫垂切除術を受けているが、虫垂切除術は全身麻酔を要し術後の疼痛と障害のリスクがある。現在大部分の小児および青少年の虫垂炎患者は外科的治療を受けているが、抗菌薬のみの非外科的治療はより少ないnegative effectのために患者とその家族に好まれる可能性があり、本研究が施行された。

<目的>
合併症のない小児虫垂炎患者において、非手術群の成功率を調べ、治療関連の障害、満足度、健康関連のQOL、合併症の違いを手術群と比較する。

<方法>
本研究は2015年5月〜2018年10月(フォローアップ期間まで含めると2019年10月)までの期間にアメリカの10の3次小児病院で行われた多施設/非ランダム化試験である。
対象は合併症のない小児虫垂炎患者(7-17歳)とし(超音波・CT・MRIのいずれかで診断)、組み入れ基準には虫垂径≦11mm、膿瘍・糞石・蜂窩織炎がいずれもない、WBC 5000/μL-18000/μL、抗菌薬開始前の腹痛の持続時間≦48時間、が含まれた。
除外基準には、慢性の間欠的な腹痛の病歴、診察上で広範な腹膜炎、妊娠反応陽性などが含まれた。
主要評価項目として非手術群の成功率(1年以内に手術を受けずに保存的に治療を受けた患者の割合)、障害日数(虫垂炎に関連したケアに続いて普段の全ての活動に参加できなかった日数)の2つが設定された。副次的評価項目としては初回の入院中の非手術群の成功率、合併症のある虫垂炎の割合、30日時点の小児の障害日数や保護者の30日/1年時点での障害日数などが設定された。
サンプルサイズは、非手術群の成功率が70%以上、非手術群の障害日数が手術群と比べて5日間以上改善、10%はフォローアップを完遂出来ないと仮定してα:5%、Power:80%と設定し、364人以上の非手術患者が必要と算出された。アウトカムの評価は回帰モデルを通してなされ、逆確率治療重みづけ(IPTW法)を用いてすべてのアウトカム評価の治療群間差を補正した。

<結果>
本臨床試験に登録された1068人(平均年齢:12.4歳、38%が女性)のうち、370人(35%)が非手術治療を、698人(65%)が手術治療を選択した。フォローアップを完遂したのは合計806人(75%) [非手術群: 284人(77%)、手術群: 522人(75%)]であり、完遂率は低かった。非手術群ではより年齢が低く(平均年齢 12.3 vs 12.5)、黒人が多く(9.6% vs 4.9%)、その他の人種が多く(14.6% vs 8.7%)、学士号を有する保護者の割合が多く(29.8% vs 23.5%)、診断的超音波検査を受けた割合が多かった(79.7% vs 74.5%)。IPTW法を用いた後の1年時点における非手術群の成功率は67.1%(96%CI、61.5%-72.31%、p=0.86)であり、事前に設定された非手術群の治療成功率の閾値(≧70%)は満たさなかった。手術群と比較した1年時点の障害日数は有意に減少したが(6.6 vs 10.9; 平均群間差: -4.3日[99%CI、-6.17 to -2.43; p<0.001]、仮定された障害日数の差(≧5)は満たさなかった。事前に指定された16の副次評価項目のうち、10項目について有意差は認めなかった。

Implication:
本研究からは、合併症のない小児虫垂炎患者に対して抗菌薬のみの保存治療の方がQOLを改善させる可能性がある。しかしながら、事前に設定された治療成功率70%には到達しておらず、治療成功率の観点からは必ずしも抗菌薬のみの方がよいとは言えない。また前提としてフォローアップ完遂率が低く、IPTW後の患者背景のASDが20%未満と群間差の補正が十分でなく、さらに1年というフォローアップ期間が十分でない可能性もあるため、この研究のみで抗菌薬単独と手術群のどちらが良いか結論づけることは出来ない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科