院外心停止患者のおける心停止状態での搬送と現場蘇生継続での退院生存率の比較

Journal Title
Association of Intra-arrest Transport vs Continued On-Scene Resuscitation With Survival to Hospital Discharge Among Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest.

論文の要約
<背景>
院外心停止患者(Out-of-Hospital Cardiac Arrest;OHCA)の蘇生処置中における搬送のタイミングに関してはさまざまな見解がみられ、地域、医療従事者によって大きく異なる。 蘇生処置をその場で継続するか、蘇生を継続しながら搬送するほうがよいかを比較した臨床試験データが不足している。今回、米国の大規模前向きレジストリーのデータを用いて上記2つ方法における転帰を比較した。

<方法>
北米の10つの研究拠点(192の救急医療サービス(Emergency medical service;EMS))が参加したResuscitation Outcomes Consortium Cardiac Epidemiologic Registry-Cardiac Arrest OHCA registryを用いて、蘇生を継続しながらの搬送した群と自己心拍再開(ROSC;return of spontaneous circulation)後に搬送を開始された群での予後を比較するコホート研究を行った。期間は2011年4月から2015年6月までであり、フォローアップは退院まで行われた。
対象は院外心停止患者であった。定義はBystanderまたは救急隊員による体外除細動をされた患者、または救急隊員による胸部圧迫をされた患者であった。18歳未満、Do-not-resustate orderが発見された時点で蘇生が中止された患者、心停止前に搬送が開始された患者、心停止中の搬送と分類するため・一次転帰を分類するために必要なデータが欠落している患者、傾向スコア分析に必要な変数が欠落している患者は除外された。
主要評価項目は退院時の生存割合であり、副次評価項目は良好な神経学的所見(modified Rankin Scale<3)での退院であった。
解析は時間依存性傾向スコア分析を用いて行われた。スコアはCox比例ハザードモデルを用いて生成された。交絡因子として次のものが調整された。年齢、性別、場所(public vs not)、立ち合い状況(bystander vs EMS vs not witnessed)、bystanderCPRの有無、救急車到着時間、初期波形、病因(心原性 vs not)、2次救命処置ユニットの接触、治療地域。

<結果>
2011年4月から2015年6月までの間に調査地域でEMSによる治療を受けたOHCAは57,725例であった。本研究には43,969人の患者が含まれ、そのうち11,625人(26%)が蘇生を継続しながらの搬送を受け、32,344人(74%)がROSCまたは蘇生終了まで現場での蘇生処置を受けた。全体の退院時生存割合は、心停止搬送群が3.8%、現場蘇生法群は12.6%であった(リスク差:-8.8%(95%CI-8.3〜-9.3))。傾向マッチコホートでは退院時生存割合は、現場での継続的な蘇生8.5%と比較して、蘇生を継続しながら搬送を受けた患者4.0%の方が低く、リスク差は4.6%(95%CI、4.0〜5.1)で、修正リスク比は0.48(95%CI、0.43〜0.54)であった。
良好な神経学的転帰を伴う生存割合は、現場での継続的な蘇生群で7.1%と比較して、蘇生をしながら搬送を受けた患者2.9%で低く、リスク差は4.2%(95%CI、3.5-4.9)で、調整済みリスク比は0.60(95%CI、0.47-0.76)であった。

Implication
筆者らはこの研究で蘇生中の搬送は有害な転帰と有意に関連しており、現場で蘇生を行う戦略を支持している。
本研究の内的妥当性はOutcomeがHardOutcomeであり危険因子による交絡が少ないことは評価できる。しかし、調整された交絡因子の標準化平均差(SMD;standard mean difference)>0・1であるものが多く、両群間で交絡がバランシングされておらず内的妥当性が下がる。外的妥当性においては日本においては救急隊の蘇生処置との質の違いが大きく外的妥当性は低いと考えられる。
本研究では現場で蘇生を継続することにより予後が改善される可能性が示された。しかし、調整因子に含まれている交絡が両群間でバランシングされていなく内的妥当性が低い。そのため本研究のみでは臨床に当てはめるには不十分であり、今後交絡因子の適正な調整がされた研究が必要である。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科