救急外来で30日後の死亡率予測におけるクリニカルフレイルスケールの妥当性

Journal Title
Validation of the Clinical Frailty Scale for Prediction of Thirty-Day Mortality in the Emergency Department
Annals of Emergency Medicine, 2020-09-01, Volume 76, Issue 3, Pages 291-300, DOI:https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2020.03.028

論文の要約
<背景>
フレイルはストレスがかかるとホメオスタシスの障害、脆弱性がました状態を示す。特に高齢のフレイルは救急外来受診、入院、死亡のリスクと関連している。過去に様々なフレイルスコアが発表されて、救急外来で検証されたものもあったが、スコアが簡便でなかったり自己申告制で客観性に欠けていたため救急の現場では適用が難しく、妥当性にも問題があった。
 Clinical Frailty Scale(以下CFS)は2003年にCanadian Study Of Health and Agingで発表されたフレイルスコアであり、入院患者において入院日数と入院死亡を予測することが示されている。しかし、これまでこのスケールが急性期の現場の連続サンプルで検証されたことがない。そこで、今回、このスケールの救急外来における高齢者に対する30日死亡の予測精度を検証した。

<方法>
スイスのバーゼル大学の3次医療センターの救急外来で、65歳以上の患者に対するCFSの30日死亡の予測精度の外的検証が行われた。Inclusion Criteriaは65歳以上で救急外来を受診した患者全員とし、蘇生処置やICU入室で口頭の同意が得られなかった患者は除外した。事前に30分の講義を受けた4-6年生の医学部学生が、救急外来受診患者にルーチンでCFSを測定した。また測定の信頼性を評価するために上記学生チームと高度実務看護士・医師との間の測定者間変動をランダムに抽出した患者で検証した。Primary Outcomeは30日死亡割合、Secondary outcomeは30日ICU入室割合と入院(24時間以上)割合とした。また、Emergency Severity Index(ESI)、Identification of Seniors at Risk(ISAR)とCFSの予後特性の比較を行った。CFSは9点スケールで点数が高くなると脆弱性が増すスコアである。過去の研究に従い、以下の4カテゴリーに分類した;(1)1-4点をフレイルなし、(2)5点を軽度フレイル、(3)6点を中等度フレイル、(4)7-8重度フレイル。交絡を避けるため事前に9点は除外した。CFSが30日死亡割合の独立因子であるか決定するために年齢、性別、内科/外科疾患を説明変数として調整したCox比例ハザードモデルを計算した。比例ハザード性の仮定が適切かどうかはSchoenfeld's test(残差分析)、log-logカーブを用いて検討された。サンプルサイズは比例ハザードモデルを用い、Events Per Variable≧10以上として、5%の欠損を想定し2100人と算出した。CFSが有意に30日死亡を予測するか尤度比検定(モデルのカイ2乗検定)を行った。識別能は多変量ロジステック回帰モデルを計算し、ROC曲線を作成しArea Under Curveを求め、差の分析はDeLong検定を行った。較正は較正曲線を描き、Hosmer-Lemeshowテストを使用し、平均予測確率と平均観察度数を比較した。

<結果>
2019年3月18日から5月20日で8763人が救急外来を受診し、そのうち2459人が65歳以上であった。欠損値やフォロー漏れの患者を除き、2393人が分析された。患者背景は年齢の中央値は78歳、女性は51%、内科疾患が58.5%で、フレイル(CFS≧5)の有病率は36.7%であった。測定者間のコーエンκ0.74(95%Cl:0.64-0.85)で信頼性は良好であった。
Cox回帰においてCFSはカイ2乗117.56;p<0.001と30日死亡を有意に予測した。30日死亡のAUCはCFS:0.81、ESI:0.74、ICU入室はCFS:0.69、ESI:0.78、入院はCFS:0.72、ESI:0.75であった。ISARとの比較では30日死亡、ICU入室、入院の全てでCFSがISARを上回った(z=4.26、p<0.001)。較正は30日死亡とICU入室では、統計的予測と観察度数で違いはなく、入院では観察度数が予測を上回った

Implication
近年、脆弱さの尺度としてフレイルが注目されているが、比較的新しい概念である。本検証はCFSの救急外来における初の前向き外的検証である。結果としてCFSの30日死亡のAUCはESIやISARと比較しても精度がよいことが示された。学生と看護士・医師の測定者間変動はコーエンのκ0.74であり、スコアの簡便性・信頼性も示された。年齢、性別、内科/外科疾患の交絡を多変量ロジスティック回帰の感度分析も同様であり結果の頑健性を示している。一方で、較正は北欧の高いPrimaryCareの水準が交絡因子となったのか、実際の観察度数が統計的予測を上回る結果となり、単施設であることも踏まえ外的妥当性に欠ける。高齢者にとってフレイルは生命予後の推定や包括的な医療を行う上で重要な概念であり、救急外来での有用性に関してRCTを含めた更なる検証やインパクトアナリシスに期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科