エンパグリフロジン投与でEF30%前後のHFrEF患者における心血管死亡率および心不全入院率は改善されるのか

Journal Title
Cardiovascular and Renal Outcomes with Empagliflozin in Heart Failure
DOI: 10.1056/NEJMoa2022190

論文の要約
<背景>
SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として一般に使用されており、心腎保護作用も有している。先行研究であるDAPA-HF試験では糖尿病合併の有無に関係なく、EF<40%のHFrEF患者に対してSGLT2阻害薬であるダパグリフロジンを投与することで、心血管死亡率および心不全入院率の改善を認めた。本研究[EMPEROR-Reduced]は、EFの低下した患者群に対してSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを投与することにより同様な結果が得られるかどうかを検証した。

<方法>
20か国520の施設で行われた2重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験である。対象は18歳以上の成人で、「EF<30%」ないしは「EF>30%ながらNTpro-BNP高値、または直近1年間の心不全入院既往」の条件を満たす者とした。介入群にSGLT2阻害薬であるエンパフリグロジン10mgを用いた。全ての患者は標準的心不全治療を受けており、糖尿病合併の有無は問われなかった。主要評価項目は、心血管死亡率および初回心不全入院率であり、副次評価項目は心不全入院の合計回数およびGFR低下率とされた。サンプルサイズはプラセボ群の主要評価項目の年間発生率を15%、エンパグリフロジン投与による相対リスク減少率が20%と仮定して、検出力90%、α=0.05で3600人となった。解析はコックスハザードモデルで行われた。

<結果>
2017年4月〜2019年11月の期間に登録された7220人のうち、3730人がランダム化された。そのうち1863人がエンパグリフロジン群、1867人がプラセボ群に割り付けられた。主要評価項目はハザード比0.75[95% CI:0.65-0.86]とエンパグリフロジンの追加投与により有意に減少した。ただし、有意差がついたのは心不全入院[HR, 0.69;95% CI:0.59-0.81]のみで、心血管死に関しては有意差を認めなかった[HR, 0.92;95% CI:0.75-1.12]。副次評価項目では、全心不全入院はハザード比0.7[95% CI:0.58-0.85]と有意な減少を認め、GFR低下率も減少[95% CI:1.10-2.37]を認めていた。副作用に関しては、尿路感染は増加したものの、低血糖や下肢切断のリスクは変わらなかった。

Implication
本研究では、EF30%前後のHFrEF患者に対して、エンパグリフロジンを投与することによって心不全入院率が減少することが示された。また、サブグループ解析の結果も一貫性があり結果の頑健性がある。ただし、心血管死に関しては先行研究とは異なり有意な結果は得られなかった。内的妥当性に関して、良い点としては、多施設他国の大規模RCTで二重盲検が行なわれているため選択バイアス・情報バイアスの影響が小さい点が挙げられる。しかし、COIに関する記載が乏しい点が弱みとして考えられる。外的妥当性として、良い点としては、多国籍大規模であるため一般化可能性が高く、一般に使用されている薬剤である点、薬価も高価ではない点が考えられるが、弱い点として数年以上の長期予後が不明な点、HFpEF患者やHFmrEF患者に有用かどうか不明な点が挙げられる。
SGLT2阻害薬の効果にはいくつか仮説があり、特に利尿剤の効果がその一つとして考えられている。しかし、本研究において利尿剤使用量の報告がなく、利尿剤効果が上乗せされたものなのかは不明である。SGLT2阻害薬にはいくつかの種類があり、それぞれの薬剤そのものの効果であるのか、クラス効果であるかも不明である。ここ数年で心不全に対するSGLT2阻害薬の効果を検証した研究がいくつか発表されており、総合的に判断する必要がある。
以上からSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが心不全に対する新規治療薬となることが期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科