ビタミンD補充による良性発作性頭位めまい症(BPPV)の予防

Journal Title
Prevention of benign paroxysmal positional vertigo with vitamin D supplementation
Neurology. 2020;95:e1117-e1125 .

論文の要約
<背景>
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は良性疾患だが、患者の86%では日常生活に支障をきたし仕事を休むことがを余儀なくされている。BPPVの診断や治療にかかる費用は高額であり、米国でのBPPVに関連する医療費は年間20億ドルと推定される。BPPVは罹患率が高く、再発する疾患であるにも関わらず、現時点では予防方法が確立されていない。近年BPPVの発症にビタミンD欠乏が関与していると示す研究がいくつかあるものの、ビタミンD補充によってBPPVの発症が予防されると証明するRCTは存在しない。本研究ではビタミンDとカルシウム補充はBPPVの再発を減らすことができるかランダム化比較試験を行った。

<方法>
韓国の8つの大学病院で行われたopen labelのランダム化比較試験である。1:1の中央コンピュータ割付方式でランダム化された。患者群はめまいクリニックでBPPVと診断された18歳以上の患者であり、BPPVの診断は1)頭位変換で誘発される短時間の再発性のめまい 2)BPPVに特徴的な眼振 3)別の障害に起因しない を満たす患者が組み込まれた。また、ビタミンDやカルシウム製剤の既使用者、妊婦、本研究で使用する製剤にアレルギー反応や副作用の既往のあるものは除外された。介入群は血清25-hydroxyvitamin D,Ca,P,副甲状腺ホルモンを測定し、血清ビタミンDが20ng/mLであった患者へはビタミンD800IUと炭酸カルシウム1000mgを1年間投与され、2ヶ月目と12ヶ月目に血液検査が行われた。対照群は血液検査や投薬は行われなかった。主要評価項目は年間再発率とし、副次評価項目は再発患者割合、血清25- hydroxyvitamin D,年間転倒率,年間骨折率,カリフォルニア大学ロサンゼルス校めまい問診票(UCLA-DQ)を用いたQOLの変化とした。BPPV の再発が疑われる患者は研究センターへ連絡し最寄りのクリニック受診を指示されBPPVの診断を受ける。また、毎月電話調査で前月のめまい、転倒、骨折の発生、6ヶ月目と12ヶ月目には同じアンケート用紙を用いてQOL 調査がされた。再発の診断はクリニックでの診断または、電話調査での問診に基づいて行い、典型的な病歴であれば再発とされた。サンプルサイズは研究者が強力な証拠が必要と判断し、12ヶ月のビタミンDとカルシウム投与でBPPV の再発率を20%減少すると仮定して検出力80%,α=0.05と設定し、934人の症例数が必要と研究者が決定した。Intention to treat(ただし少なくとも1ヶ月間追跡を行った患者のみを対象とした)、合わせてper protocol解析(12ヶ月追跡、かつ70%以上の服薬コンプライアンスを得られた患者を対象とした)を行った。

<結果>
2013年12月から2017年5月まで適格性が評価された1491人のうち、1050人が介入群518人、対照群532人に割付けられた。介入群は血液検査を拒否した18人を除き500人とし、その中でビタミンDが20ng/mL以上の群152人、未満の群348人に分けて、20ng/mL未満の群にビタミンDとカルシウムを投与した。1ヶ月以上追跡できた介入群445人(ビタミンD欠乏患者が299人)と対照群512人をITT解析の対象とした。主要評価項目では、介入群では年間再発率が0.83[95% CI:0.74-0.92] 、対照群では1.10[95% CI:1.00-1.19]と有意に減少を認め、Per protcolでも同等の結果が得られた。副次評価項目では、血清ビタミンD値は介入群では12ヶ月後に13.3ng/mLから24.2ng/mLに上昇を認め、QOLは介入群で著明に改善した。年間転倒率や骨折率には両群間に有意差がなかった。

Implication
本研究ではビタミンDとカルシウム補充によってBPPVの再発率は減少することが示された。内的妥当性に関して、多施設RCTであることは良い点だが、プラセボ投与がなく盲検化されていない点や、対照群と比較して介入群で中途脱落患者が多く、そのため予防効果が過小評価されていた可能性がある点、BPPVの再発を電話での問診やクリニックでの診断に基づいているため誤診断されていた可能性がある点、ビタミンDやカルシウムの投与量や期間の決定方法が不明瞭である点などいくつか弱みが指摘される。外的妥当性としては韓国単一国での実施であることが弱みではあるが、NNT3.70と示され、血液検査や投薬にかかった費用とBPPV1回の再発にかかる費用を比較しても、費用対効果が高い点は強みといえる。実際にBPPV患者に投薬を行おうとした場合、本研究ではビタミンD補充の最適な投与量や期間、目標ビタミンD値は示されておらず、今後さらなる研究が必要である。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科