救急部門主導で実施する転倒予防ケア介入が救急部門受診後の転倒や医療機関受診を予防し得るか

Journal Title
Can an Emergency Department-Initiated Intervention Prevent Subsequent Falls and Health Care Use in Older Adults? A Randomized Controlled Trial
Annals of Emergency Medicine. 2020 Aug 24;S0196-0644(20)30591-6.
PMID: 32854965 DOI: 10.1016/j.annemergmed.2020.07.025

論文の要約
<背景>
米国による65歳以上の転倒を原因とする死亡率は上昇傾向にあり、医療費を圧迫している。転倒歴は再転倒リスクを2倍にするとの研究結果が示されており、転倒の予防が重要である。薬剤師や理学療法士による転倒予防を目的とした地域へ介入が効果をもたらすことは他国では実施され効果を示している。一方で救急医療機関 (以下EDとする) の再受診率をアウトカムとした研究、EDにて転倒による受診後早期に予防介入を行う研究は本研究が初となる。本研究では転倒後7日以内にEDを受診した65歳以上の在宅患者に薬剤師・理学療法士による転倒予防目的介入を行い、6ヶ月以内の医療機関再受診および入院の発生率を測定した。

<方法>
本研究は米国のロードアイランド州プロビデンスに位置する2つのEDで行われた多施設非盲検無作為化比較試験である。対象は転倒受傷後1週間以内にEDを受診した65歳以上の患者とした。介入群と対照群はブロックランダム化で1:1に割り付けられた。介入群では薬剤師および理学療法士による転倒予防介入を行った。薬剤師は近日の処方内容の確認と転倒のリスクとなり得る薬の調整を行い、患者に対して内服指導及び動機付け面接を行なった。理学療法士は歩行や起立など生活基本動作の能力を評価し、運動療法計画を患者ごとに策定した。双方の計画はEDの患者担当医、患者プライマリケア医に共有された。対照群では生活の中における転倒を防ぐための手段について記載したパンフレットを手渡した。ED受診後6ヶ月間の間に行なった調査として、被験者に対しして1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後の電話による聞き取りと6ヶ月後の自宅訪問を行った。また、2医療機関の電子カルテや患者プライマリケア医への聞き取りも行なった。Primary outcomeとして6ヶ月時点までの転倒関連の医療機関受診・入院回数と全ての医療機関受診・入院回数を人-10か月あたりで測定した。サンプルサイズは過去の研究から6ヶ月以内に転倒により医療機関を受診する患者の割合を介入群で6%、対照群で30%しと仮定し、α=0.05、検出率80%として募集目標は120人となった。ITT解析とし、負の二項分布モデルを当てはめて解析した。性別、年齢、併存症、ED受診時の外傷の重症度、歩行補助具使用歴、ED受診から遡及し3ヶ月間の転倒回数、ADL、受診EDを調整変数とした。

<結果>
適格性が評価された284人のうち研究に同意した220人が介入群110人、対照群110人に割り付けられ、最終的に調整なしで220人、調整ありで218人が解析された。介入群では薬剤師介入は54人、理学療法士介入は46人に実施された。交絡因子調整後の一人・10ヶ月辺りの医療機関d受診及び入院発生率の点推定値と95%信頼区間値、そして対照群と介入群の相対リスク比を以下に示す。転倒関連受診は対照群で0.34(0.12-0.99)、介入群で0.12(0.04-0.38)、相対リスク比0.34(0.15-0.76)となった。全受診は対照群で1.54(1.04-2.30)、介入群で0.73(0.45-1.17)、相対リスク比0.47(0.29-0.74)となった。転倒関連入院は対照群で0.22(0.09-0.56)、介入群で0.22(0.08-0.52)、相対リスク比0.99(0.31-3.27)となった。全入院は対照群で0.77(0.46-1.31)、介入群で0.44(0.24-0.82)、相対リスク比0.57(0.31-1.04)となった。ED受診後6ヶ月時点での介入内容のアドヒランスを以下に示す。薬剤師による内服指導は記録追跡が可能であった154指導のうち51%で内容全てが実行されていた。22%で内容の一部が実行されており、27%が全く行われていなかった。理学療法士による運動療法指導は記録追跡が可能であった100指導のうち54%で内容全てが実行されていた。13%で内容の一部が実行されており、32%が全く行われていなかった。

Implication
本研究では転倒後7日以内にEDを受診した65歳以上の在宅患者に薬剤師・理学療法士による転倒予防目的介入を行うことで、6ヶ月以内の医療機関再受診および入院の発生率を大幅に減少させられることを示唆した。本研究の結果を解釈する上で考慮すべきバイアスを2つ示す。本研究では同一EDに両群被験者が混在するため、被験者は自身の割り付けを把握し、かつもう一方の群の介入内容を把握し得る。この点で、介入群では被験者の受診を抑制する心理的働きかけの存在が示唆され、転倒歴調査時に情報バイアスが生じ得る。また、適格性が評価された284人の患者のうち174人が研究への参加を辞退している点で、選択バイアスが生じ得る。これらは医療機関再受診および入院の発生率の低下に影響を与えうる。しかし本研究が転倒直後の患者に救急医療機関にて転倒予防介入することが医療機関再受診および入院の発生率にもたらす効果を示したことは確かである。本研究は転倒に関連して医療機関を受診した高齢者への転倒予防介入の効果に関して、pragmatic RCTやcluster RCTの活用や長期追跡を伴うより高次の検証を行う意義を示した。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科