成人の舟状骨腰部骨折に対する外科的治療とギプス固定の比較

Journal Title
Surgery versus cast immobilisation for adults with a bicortical fracture of the scaphoid waist (SWIFFT)
Lancet. 2020Aug8;396(10248):390-401. PMID: 32771106 DOI: 10.1016/S0140-6736(20)30931-4

論文の要約
<背景>
舟状骨骨折は、手根骨骨折の約90%を占め、主に若年男性に発生する。舟状骨骨折はギプス固定を行い、偽関節が認められた場合に外科的治療を行うのが標準治療とされている。近年早期外科治療を行う例が増えてきているが、偽関節率の低下や骨癒合期間の短縮の可能性はあるものの、非外科的治療に比べ患者転帰を改善するという十分なエビデンスはない。本研究では舟状骨腰部骨折に対するギプス固定と早期外科的治療の有効性を患者転帰改善という点で比較した。

<方法>
本研究はイングランドとウェールズの国立病院31施設で行われた多施設非盲検無作為化比較試験である。対象は受傷後2週間以内にレントゲンで転位2mm以内の舟状骨腰部骨折と診断された16歳以上の患者とした。介入群は担当医の判断で受傷後2週間以内に外科的治療を行い、対照群は6-10週のギプス固定に加えて観察期間中に偽関節を認めた場合は直ちに手術を行った。それぞれをブロックランダ化と層別化で1:1に割り付けた。Primary outcomeは52週時点での手関節機能評価(PRWE, 100点満点)の合計点数とし、Secondary outcomeとして52週時点でのPRWEサブスコアや骨癒合、関節可動域、握力などとした。サンプルサイズはPRWEスコア6点が臨床上の最小の差と仮定し、標準偏差20、α=0.05、検出率80%として募集目標は350人となった。そのうち20%の離脱を考慮し、募集目標は438人としITT解析を行った。

<結果>
適格性が評価された1,047人のうち439人が介入群219人、対照群220人に割り付けられ、最終的に408人が解析された。52週時の平均PRWEスコア(補正平均値)は、介入群が11.9(95%信頼区間[CI]:9.2〜14.5)、ギプス固定群が14.0(11.3〜16.6)であり、両群間に有意差は認められなかった(補正後平均群間差:-2.1、95%CI:-5.8〜1.6、p=0.27)。52週時点でのPRWEサブスケール、SF-12スコア、可動域、握力で有意差は認めなかった。52週の時点では外科治療群の方が癒合不全の可能性は低い(介入群4人、対照群9人)。手術に関連した重篤な合併症は、手術群(219例中31例、14%)のほうがギプス固定群(220例中3例、1%)より多い可能性があった。ギプス関連合併症は手術群(5例、2%)がギプス固定群(40例、18%)より少なかった。内科的合併症の発現は、両群間で類似していた(手術群4例[2%]、ギプス固定群5例[2%])

Implication
本研究では2mm以下の舟状骨骨折に対する早期外科治療はギプス固定に比べて52週時点での患者転帰は改善しないことが示唆された。しかし患者割り付け前に半数以上が除外されおり、その内訳の過半数は不参加であった。割り付け後のコンプライアンス違反も多く、現場臨床医の判断で治療方法の誘導があった可能性がある。このことから、治療効果に関して過小評価している可能性があり、本研究のみでは早期外科治療がギプス固定と同等の治療効果があるとはいえず、今後更なる追加研究が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科