ビタミンD低値の小児喘息患者に対するビタミンD補充が重症喘息発作に効果をもたらすか

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Effect of Vitamin D3 Supplementation on Severe Asthma Exacerbations in Children With Asthma and Low Vitamin D Levels: The VDKA Randomized Clinical Trial
Erick Forno et al. JAMA. 2020 Aug 25;324(8):752-760. PMID: 32840597

論文の要約
<背景>
2018年時点でアメリカには推定550万人の喘息患者がおり、医療資源の利用や費用の主要な原因の一つであり、2018年には重症喘息発作によって54万6千人の患者が救急外来を受診し8万人が入院を要した。
これまでいくつかの観察研究によって、血清ビタミンD低値と重症喘息発作、低肺機能、副腎皮質ステロイドへの反応性低下、が結びつく可能性が示唆されてきた。(制御性T細胞の誘導やTh2/Th17の反応の減衰、IL-10産生の亢進、などのビタミンDの免疫調節作用や抗炎症作用、気道平滑筋肥大の抑制などが仮説として考えられる。)     
参加者レベルのデータを用いたメタ解析にて、ビタミンD3が重症喘息発作のリスクを低下させる可能性が示されたが、16歳以下の小児に対してはデータが不足していた(Jolliffe DA et al. Lancet Respir Med.2017;5(11):881-890)。また、より最近の喘息発作予防に対するビタミンD3の包括的レビューでは小児にビタミンD補充を推奨する十分なエビデンスが得られなかったが(Stefanidis C et al. Thorax. 2019;74(10):977-985.)、これまでのランダム化比較試験では血清ビタミンD低値の患者や重症喘息発作の高リスク患者について焦点を当てておらず、さらに血清ビタミンD値をモニターしておらず補充後にビタミンD値がコンスタントに改善していることが示されていなかった。以上のような背景を踏まえて本研究が行われた。

<目的>
ビタミンDの補充によって、喘息がありビタミンD低値の小児における重症喘息発作までの時間を改善させることができるかを調べる。

<方法>
本研究は2016年2月〜2019年3月(フォローアップ期間まで含めると2019年9月)までの期間にアメリカの7施設で行われた二重盲検ランダム化比較試験である。      
対象は、6-16歳で喘息に対して低用量の吸入ステロイド使用中、かつ血清ビタミンD濃度低値(25-ハイドロキシビタミンD<30ng/mL)の患者とし、除外基準には血清Ca高値(>10.8mg/dL)、血清ビタミンDの異常低値(<14ng/mL)、重症喘息(気管挿管を要する,前年に喘息で3回以上の入院など)、肝/腎障害、くる病、経口副腎皮質ステロイド使用中、体重<10kgなどが含まれた。
主要評価項目には重症喘息発作が起きるまでの時間が設定された。副次的評価項目としてはウイルスによって引き起こされた重症喘息発作までの時間、吸入ステロイドの量が減少した参加者の割合、フルチカゾンの累積投与量が設定された。
サンプルサイズは、16%の差(重症喘息発作の頻度がプラセボ群:40%から治療群:24%に減少)が検出できるように設定し、15%が脱落すると推定してα:0.05、Power:88%と設定し、400人以上の症例数が必要と算出された。ITT(Intention to treat)解析、コックス比例ハザード回帰モデルが使用された。

<結果>
無作為化された192人の患者(平均年齢:9.8歳;女性77人[40%])を対象とし、治療群:96人/保存的治療群:96人と1:1に割り付けられ、180人(93.8%)が試験を完遂した。介入群にはビタミンD:4000IU/日が、コントロール群ではプラセボが48週間投与された。2019年3月時点で無益性と判断されて(事前に設定された条件付検出力<0.3を満たしたため)本研究は中断されたがフォローアップは2019年9月まで行われた。
ビタミンD群では36人(37.5%)、プラセボ群では33人(34.4%)に1回以上の重症喘息発作が起きた。
主要評価項目である重症喘息発作までの平均時間はビタミンD治療群:240日、プラセボ群:253日であり両群間の差は-13.1(95%CI:-42.6〜16.4)、補正ハザード比は1.13(95%CI: 0.69〜1.85)と有意には改善しなかった。上述した副次評価項目についても同様に、プラセボ群と比較して有意な改善は得られなかった。
重大な有害事象(入院, 好酸球症, 重度の好中球減少)の数は両群間で類似していた。(ビタミンD群: 11人, プラセボ群: 9人)

<Discussion>
本研究の内的妥当性に関して、二重盲検ランダム化比較試験、多施設(7)、ビタミンDの十分な補充がなされていることは優れた点である。また著者たちはLimitationの一つとして、重症喘息発作の割合が事前に想定していたよりも低かったと述べているものの、予想された割合40%に対して実際は、ビタミンD群では37.5%、プラセボ群では34.4%と近い数字になっておりこれも内的妥当性を高めるものと考えられる。外的妥当性の批判的吟味に関しては、多施設ではあるがアメリカ単一国での実施であること、対象年齢が6〜16歳に限定されている点、気管挿管を要するような最重症の患者は除外されている、高Ca血症のリスクがありモニターできる環境に限られる点などが挙げられる。

Implication
これまでの試験結果を踏まえ本研究結果から総合的に判断すると、小児喘息患者に対するビタミンD投与は、たとえ血清ビタミン低値であったとしても喘息予防の目的での投与は積極的には推奨されないと考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科