下肢蜂窩織炎の再発予防のための圧迫療法

Journal Title
Compression Therapy to Prevent Recurrent Cellulitis of the Leg
N engl J med 383;7 August 13, 2020

論文の要約
<背景>
蜂窩織炎は、皮膚や皮下組織でよくみられる細菌感染症であり、主に下肢で起こり、最大47%の患者が3年以内に再発する。再発予防に関してはペニシリンの予防投与が唯一再発予防の効果が証明されている。しかし、抗菌薬投与終了に従い、その効果も減少する。そのため更なる予防策が期待されている。本研究では蜂窩織炎のリスク因子である下肢の慢性浮腫に対して弾性ストッキングによって浮腫をコントロールすることで蜂窩織炎の再発が防げるか検証した。

<方法>
本研究は単一施設非盲検無作為化試験である。対象は試験開始前2年間に、同一下肢の蜂窩織炎を2回以上繰り返し、下腿の浮腫が3ヶ月以上持続しているものとされた。患者は下肢圧迫療法に加え蜂窩織炎の予防に関する指導を受ける群(圧迫群)と,指導のみを受ける群(対照群)に 1:1 の割合で割り付けた。
追跡調査を6ヵ月ごとに、最長3年、または試験期間中に蜂窩織炎が45件発生するまで行うこととした。主要転帰は蜂窩織炎の再発とした。蜂窩織炎が発生した対照群の参加者は,圧迫群にクロスオーバーした。副次的転帰は,蜂窩織炎に関連する入院,QOL 評価などとした。サンプルサイズは、蜂窩織炎の再発率を40%と仮定し、圧迫療法は再発性蜂巣炎の発生率を50%減少させるとし、検出力80%、α=0.025を見積もり、必要サンプルサイズを162人とし、Intention to treat解析を行った。
Primary,secondary outcomeにはKaplan-Meierプロット、ログランク検定を用いて群間差を検定しCox比例ハザード回帰を用い、ハザード比を推定し、蜂巣炎に対する他のリスク因子の関与を評価した。蜂窩織炎のエピソードが23件発生した後、データモニタリング委員会により中間解析が実施される。ログランク検定を用いて群間差を評価する。p=0.003の有意水準が検出され、強い臨床的影響が示唆される場合には、試験を中止することが試験開始前に規定されていた。

<結果>
183例がスクリーニングを受け,84 例が登録された。41例が圧迫群に,43例が対照群に割り付けられた。中間解析が予定されていた時点,すなわち蜂窩織炎が23 件発生した時点で,圧迫群では6例(15%)、対照群では17例(40%)に蜂窩織炎が発生しており(ハザード比 0.23,95%信頼区間 [CI] 0.09?0.59,P=0.002;相対リスク [事後解析] 0.37,95% CI 0.16?0.84,P=0.02),試験は有効性を理由に中止された。圧迫群の3 例(7%)と対照群の6例(14%)が蜂窩織炎で入院した(ハザード比 0.38,95% CI 0.09?1.59)。QOL 転帰の大半で2 群間に差は認められなかった。試験期間中に有害事象の発現はなかった。

Implication
本研究において下肢の慢性浮腫を有し蜂窩織炎を繰り返す患者を対象に圧迫療法を行うことで蜂窩織炎の再発は予防されることが示された。
本論文の強みはこれまで再発予防に関してはペニシリンの予防投与が唯一の方法であったが、下肢蜂窩織炎と圧迫療法の関係を証明しようとしたこと、そしてRCTならびにITT解析がなされていることである。
一方、弱みとしては、主要評価項目がソフトアウトカムで情報バイアスが懸念されること、オーストラリア1国の単施設研究であり、しかも対象患者が183人に対しinclusion criteriaで99人が脱落しているため一般化可能性を損ねている点、コントロール群でクロスオーバーが多くみられ、群間のバランスを損なっている可能性があり、早期中断された小規模試験であるため効果量が過大評価されている可能性がある点も注意が必要である。
以上、この研究から決定的な結論を導くことは出来ないが、再発予防のエビデンスが乏しいなか、非常に有用な仮説であり引き続き検証結果が待たれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科