救急外来における憩室炎のポイントオブケア超音波診断に関する前向き研究

Journal Title
A Prospective Evaluation of Point-of-Care Ultrasonographic Diagnosis of Diverticulitis in the Emergency Department. Ann Emerg Med. 2020 Jul 8. doi: 10.1016/j.annemergmed.2020.05.017.

論文の要約
目的:ポイントオブケア超音波検査(Point-of-care ultrasonography;POCUS)は憩室炎の診断において中等度?高い感度を示しているが、救急外来での有用性に関する情報は限られている。現在、救急外来において、憩室炎が疑われる患者に選択される画像モダリティとしてはCTが一般的である。急性憩室炎の診断をPOCUSで迅速に行うことができれば、CT検査時間の短縮、放射線被曝の減少、抗生物質の早期投与につながるため、患者の外来滞在期間を短縮できる可能性がある。本研究では、救急外来における憩室炎の診断におけるPOCUSの検査特性を,CT検査を基準として比較した。

方法:本研究は2017年9月から2020年1月までの間、ニューヨーク州マンハセットにあるノースショア大学病院で行われた単施設前向き観察研究である。憩室炎が疑われる腹痛の患者に、超音波検査のフェローシップ研修を受けた救急医と医師助手の合計 19 名が超音波検査を実施した。憩室周囲の腸管壁肥厚(≧5mm)、腸管周囲の脂肪織の陰影増強、および超音波での局所の圧痛の3つが揃った場合に憩室炎と診断した。検者は、臨床所見、検査所見、CT 所見を盲検化されていた。憩室炎の診断におけるPOCUSの感度、特異度、陽性予測値、陰性予測値を主要アウトカム評価項目とし、CT所見を基準として算出した。

結果:452人のデータを解析した。452例中161例(36%)にCTで憩室炎が認められ、35例(22%)が膿瘍、蜂巣炎、瘻孔、閉塞を伴う合併性憩室炎と診断された。452例のうち、POCUSの偽陽性は13例(3%)、偽陰性は10例(2%)であった。CTと比較して、POCUSは、憩室炎の診断において、感度92%(95%信頼区間88%?96%)、特異度97%(95%信頼区間94%?99%)、陽性予測値94%(95%信頼区間90%?97%)、陰性予測値96%(93%?98%)であった。POCUSの平均検査時間は4.9 分(SD 1.9 分)であった。

Implication
検者は臨床所見、検査所見について盲検化されており、情報バイアスが少ないことは内的妥当性を高める。しかし、本研究でInclusionされたのは、「憩室炎を疑いCTを撮影する予定の腹痛患者」であり、選択バイアスが生じた可能性はある。また、CTの読影医が本研究の内容を把握していた場合、情報バイアスが加わった可能性がある。アメリカ国内1施設における単施設研究であり、体格の違い、機材の違いなどから、他国、他人種、他施設に適応できるかは追加の研究が必要である。検者はPOCUSの高度な訓練を受けていたため、同様の感度特異度が示せるかは個々の技量によるところが大きい。本論文に具体的な検査動画や詳細な検査方法についての記載があれば、一般化可能性を高めることに繋がると考えられる。本研究は憩室炎の診断におけるPOCUSの検査特性を示した試験であり、実際にPOCUSを用いた診断の確信度を評価するためには、ランダム化比較した追加研究が必要となるため、この論文の結果からPOCUSでCTの代用を担うと結論付けることはできず、従来の診療を変える事はない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科