急性腎障害における腎代替療法開始のタイミング

Journal Title
Timing of Initiation of Renal-Replacement Therapy in Acute Kidney Injury
N Engl J Med 2020; 383:240-251 DOI: 10.1056/NEJMoa2000741

論文の要約
<背景>
急性腎不全は集中治療室へ入室する患者においてよくみられる合併症であり、高い死亡割合と関連している。重症急性腎不全(以下AKI)は血液透析をはじめとする腎代替療法(以下RRT)が必要となり死亡割合も高い。AKIの重症度分類(KDIGO分類)の血中Crと尿量により、近年敗血症患者や外科術後患者に対するRRTの早期導入に関してRCTが行われている。そして主に外科術後患者を対象としたRCTでは早期導入で死亡割合が改善するという結果がある一方で、敗血症患者を対象としたRCTでは標準的な導入でも死亡割合に差はみられていない。今回、15か国多施設ICUで内科・外科問わず重症AKI患者を対象としてRRTの早期導入により90日時点での死亡割合が改善するか検証した。

<方法>
15か国(北米・欧州・中国・豪等)のICUでRRTの緊急適応のない重症AKI患者に対して、90日時点の死亡割合を評価するオープンラベル多施設ランダム化臨床試験を行った。Inclusion Criteriaは18歳以上のICU入室患者で血中Cre1.13mg/dl(女性)1.47mg/dl(男性)以上を満たし、KDIGO分類のStage2or3の基準である(1)CreがBaseから2倍以上 (2)Cre>4.0mg/dl以上でBaseから0.3mg/dl以上 (3)12時間で尿量6mL/kg以下のうち少なくとも1つを満たすことであった。なお、緊急透析が必要な場合、過去2か月以内のRRTの既往、eGFR<20を満たす進行した慢性腎不全、膠原病関連の腎障害などは除外された。サンプルサイズは標準治療群における死亡割合を40%と仮定し、相対リスク差15%(絶対リスク差6%)を検出するためにαエラー0.05、Power90%として2866人と算出した。なお3%が脱落すると想定し3000人募集した。適格患者はブロックランダム化とwebベースで層別化を行い割り当てられた。介入群はランダム化後12時間以内にRRTを施行し、標準群は(1)K>6.0mmol/L (2)pH,7.2orHCO3<12mmol/L (3)P/F<200 (4)volumeoverload (5)ランダム化後に72時間後経過してもAKIが持続((1)〜(5)を満たす)する場合に開始が検討された。標準介入群においてRRT導入の最終決定は臨床医が行った。Primary outcomeは90日時点での死亡割合、Secondary outcomeは生存者のRRTへの依存、腎の有害事象、90日目でのCreやeGFR、90日間でRRTを使用しない日数、入院日数、28日時点での人工呼吸器や昇圧剤からの離脱、QOL等とした。すべての分析はmodified ITT解析で行われ、早期/標準導入群で47人/45人がmodified ITTから除外された。(ランダム化後にInclusionを満たさないことが分かった患者、同意撤回患者、フォローアップ不可の患者を除外した。)Primary outcomeはカイ2乗分析、ロジスティック解析とカプランマイヤー分析をlogrank検定で比較した。また、サブグループ解析(性・年齢・eGFR・SAPS II・Sepsis・地域性)も行った。Secondary outcomeはカイ2乗分析、逆確率重み付けと多重解析、t検定や線形回帰で比較した。

<結果>
2015年10月〜2019年12月で11852人の患者が暫定的な資格があり、そのうち3019人が最終的にInclusionを満たし、1512人を早期介入群/1507人を標準治療群にランダムに割り振った。研究コーディネーターはICUで朝・夕にスクリーニングを行い、ランダム化後でも12時間以内でRRTを開始していなければ適応を再考された。(K上昇やアシドーシスなどの基準から早期治療群では31人、標準治療群からは19人が除外された)。患者背景は群間で違いはなかった。慢性腎不全がある患者は44.9/42.8%(早期介入/標準介入)、入院カテゴリーは予定手術14.1/12.6%、非予定手術19.5/19.8%、内科疾患66.4/67.6%(早期介入/標準介入)であった。ランダム化時点でSepsis58.4/57.0%、Septic shock43.7/44.0%(早期介入/標準介入)、SAPS II/SOFAスコアは58.8±17.4/11.7±3.6%であった。90日時点の死亡割合は相対リスク1.00(95%Cl:0.93-1.09)、絶対リスクは0.2%(95%Cl:-0.3-0.4 P=0.92)であった。Secondary outcomeにおいて、相対リスクが1を超えていたのは90日時点でのRRT依存、RRT依存 or 90日時点での死亡割合、28日目での死亡割合、入院期間であった。サブグループ解析において、90日時点での致死率に差は認めなかった。

Implication
ICU患者のAKIに対するRRTの早期導入は、これまで敗血症や心臓外科患者を対象としたRCTで死亡割合を改善させるという結果がでていない。本研究は、敗血症や外科患者など患者対象を幅広く含み一般化を試みたRCTである。先行研究と比べて参加人数が多く、オープンラベル多施設ランダム化臨床試験であり、割付方法は問題なく行われて、Intention to treat解析である点で内的妥当性が高い。そして、多国籍の患者に対して標準導入群のRRT開始基準が設定された期間ではなく、電解質やアシドーシス、体液バランスを考慮した臨床医の最終判断である点は臨床に即しており、外的妥当性も高いといえる。大規模な本研究において、RRTの早期導入は標準導入と比較して死亡割合に差がなかった。また副次的アウトカムにおいては生存者のRRT依存割合を上げて有害の結果がでていた。この結果も踏まえ、緊急RRT適応を満たさない限りはRRTを施行しないpracticeを行いたい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科