血管拡張性低血圧の高齢患者に対して昇圧薬暴露を減らすことによる90日死亡率への影響

Journal Title
Effect of Reduced Exposure to Vasopressors on 90-Day Mortality in Older Critically Ill Patients With Vasodilatory Hypotension  JAMA. 2020;323(10):938-949.

論文の要約
<背景>
血管収縮薬は、ICU患者では低血圧を回避するために昇圧薬が一般的に使用されているが、リスクとメリットのバランスをとることは、特に高齢患者では課題となっている。 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2016では平均血圧65mmHg以上を目標にすることが推奨されているが、これを支持するエビデンスは乏しい。2018年のメタアナリシス(Intensive Care Med. 2018;44 (1):12-21.)では、高齢患者においては目標血圧を高く設定することにより、死亡や臓器障害が多くなることが報告されている。本研究は血管拡張性低血圧で昇圧剤投与を受けている高齢患者に対して、血圧管理目標をMAP60-65mmHgに設定し、血管収縮薬の暴露を減らすことで90日死亡率の改善が見られるか検証した。

<方法>
本研究は2017年3月から2019年3月までイギリスの65施設で行われた多施設無作為化比較試験である。対象はICUで臨床医により血管拡張性低血圧と判断され、治療として昇圧剤投与を開始されてから6時間以内にある65歳以上の患者であった。患者はMAP60-65mmHgを目標に血管収縮薬を減らす介入群と臨床医の裁量により通常の治療を行う非介入群にtelephone-webランダム化システムによって1:1の比率で無作為に割り付けられた。Primary Outcomeは90日後の全死亡割合とし、Secondary Outcomeとして、ICU退室時および急性期病院退院時死亡割合、追跡期間中の最長生存期間、ICU滞在中の人工呼吸器、腎代替療法使用期間、ICUおよび急性期病院滞在期間、90日後、1年後の認知機能低下およびQOLを選定した。サンプルサイズは先行研究から非介入群での90日死亡割合を35%、同意撤回/脱落を2.5%と推定、αエラー0.05、検出力90%で8%の絶対リスク減少を得るのに1440人が必要であると算出された。その後、事前設定された最初の6ヶ月間のパイロット期間の昇圧剤使用量などの観察結果から、絶対リスク減少が6%に変更され、それに応じて必要サンプルサイズも2600人に変更された。
<結果>
2017年7月から2019年3月までに2600人が無作為化され、同意を撤回した患者を除外した後、2463人に対して解析が行われた。そのうち1221人が介入群に、1242人が非介入群に割り振られた。患者背景は日常生活の介護度のみ介入群(33.5%)で非介入群(30.9%)に比べ高い結果となったが、その他の項目については群間差は見られなかった。介入群は、非介入群と比較して、昇圧剤への曝露が低かった{投与時間の中央値33時間 vs 38時間、中央値の差-5.0(95%CI,-7.8〜-2.2時間), 血管収縮薬の総投与量(ノルエピネフリン相当量)の中央値は17.7mg vs 26.4mg、中央値の差は-8.7mg(95%CI,-12.8〜-4.6mg)}。Primary Outcomeである90日死亡率では介入群で500/1221(41.0%)、非介入群で544/1242(43.8%)であり、有意差は認めなかった。(risk difference,-2.85%;95%CI -6.75~1.05;P=0.15)。Secondary Outcome の項目でも両群で有意差があるものはなく、重篤な有害事象は、介入群で79人(6.2%)、非介入群で75人(5.8%)見られ、急性腎不全(41[3.2%] vs 33[2.5%])と上室性心不整脈(12[0.9%] vs 13[1.0%])が多く見られた。

Implication
筆者は本研究において血管拡張性低血圧のため昇圧剤を要する高齢患者に対して、平均血圧60-65mmHgを目標とした血圧管理群と通常の血圧管理群では、90日後の全死亡に有意な差はみられなかったが、結果の信頼区間を考慮すると有益である可能性を示唆した。本研究は主要評価項目がハードアウトカムで、プロトコル違反が少ない点は内的妥当性が高いが、 inclusion criteriaが臨床医の判断によるところが大きいため、選択バイアスが懸念される。イギリス1カ国のみで行われた非盲検試験ではあるものの多施設のRCTであり、外的妥当性は高く、平均血圧の上限アラーム等の設定により実臨床への応用は容易である。介入群では非介入群と比較し、血管収縮薬の投与量、時間ともに減量できており、平均血圧60-65mmHg を目標とした管理が有益である可能性は示された。本研究結果により高齢者の血圧管理目標を平均血圧60-65mmHgに変更することの可否は判断できないが、先行研究は多数行われており、今後のsystematic reviwの結果に期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科