非心原性急性脳梗塞患者に対する昇圧薬を用いた治療 -PROBE法によるRCT - 再灌流療法非適応の脳梗塞患者の昇圧の効果と安全性

Journal Title
Therapeutic-induced hypertension in patients with noncardioembolic acute stroke
Neurology.2019 November 19 PMID: 31645472
The Safety and Efficacy of Therapeutic Induced Hypertension in Acute Non-Cardioembolic Ischemic Stroke (SETIN-HYPERTENSION) : a multicenter, prospective, randomized, open-label, blinded-endpoint trial

論文の要約
"背景"
再灌流療法(tPAや血管内治療)非適応の脳梗塞において、側副血行路によって血流を維持することは重要であると考えられる。昇圧薬による脳梗塞患者の治療は、これまでいくつかの後向き試験やパイロット試験で研究されてきた。それらの試験の中でα作動薬が効果的かつ安全であり、神経学的改善効果あると期待されてきた。
しかし、これまでの研究は小規模であったり、異質性が高くメタアナリシスでは結論が出せなかった。そのため、上記のテーマに関する初のRCTとして本研究が行われた設定された。
"方法"
韓国の8施設にてPROBE法によるRCTが施行された。対象は24時間以内発症の非心原性急性脳梗塞かつ再灌流療法非適応の患者である。患者のベースラインの血圧が170mmHg超える場合、出血性脳梗塞のリスク、広範囲(MCA領域の半分以上)の梗塞巣、意識障害がある、有意な不整脈、冠動脈疾患、鬱血性心不全、肥大型心筋症の病歴がある場合を除外した。コンピュータのブロック法で隠蔽化し、介入群はフェニレフリン投与で神経学的改善認めるか血圧上限(200mmHg)まで増量し、対照群では既存の最良の治療を施行した。サンプルサイズについてはα-level=0.05, 検出力80%、効果差20%(20%vs40%)でそれぞれのグループで80人の参加者を集める必要があると考えられた。Primary outcomeはランダム化後7日目までに神経学的改善(NIHSS 2点以上の低下)とした。Secondary outcomeはランダム化90日後のmodified Rankin Scaleで0-2点であることとした。Major safety outcomeランダム化90日後までの頭蓋内出血、脳浮腫、(神経学的増悪はNIHSS4点以上の増加を示す)、MIや死亡とした。解析はmITTで行なった。
"結果"
2012/06/01 - 2017/12/15の期間で4310人の急性脳梗塞患者から4150人の不適格患者を除外した後、160人の患者がランダムに割付けられた。そこから研究参加に同意しない7人を除外された。介入群に76人、対照群に77人割り付けた。Primary outcomeで57.9% vs 31.2%, adjusted OR 2.47, 95%CI[1.25 - 4.98, p=0.010], NNT 3.7, 95%Cl[2.4 - 7.3]で有意差示している。Secondary outcomeで75.0% vs 63.2%, adjusted OR 2.97, 95%CI[1.32 - 6.68, p=0.009], NNT 8.4, 95%CI[3.8 - 9.3]で有意差示している。Major safety outcomeで有意差を示したのは、フォローMRIで指摘された無症候性脳内出血(5 vs 0)と他の副作用(頭痛、動悸、蕁麻疹)(8 vs 0)だった。

Implication
本研究では昇圧薬による治療は非心原性脳梗塞において、早期に神経学的改善を示し、機能的にも良い結果を得た。深刻な合併症はなかった。
しかしながら、本研究にはいくつかの問題点が散見する。内的妥当性に関してはPROBE法でありながらSoft outcomeであるNIHSSとmRSをprimary/secondary outcomeとしている。そしてアウトカム評価者が盲検化されているが、研究評価者は盲検化されていないなど
主要評価項目の評価方法に疑問が残る。また、昇圧方法以外の標準治療に関して明記されておらず、対照群、介入群の治療法が統一されていなかった可能性がある点や、5年間8施設の大規模試験であるにも関わらず、160名しかランダム化されていない(4310名から4150名除外されている)ことはセレクションバイアスが懸念される。これらは内的妥当性、外的妥当性ともに損ねている。
今回の研究の臨床疑問は非常に重要であり疑問を初めてRCTで評価する試みであることは価値が高い。しかし上記のとおりバイアスリスクを無視できないと考える。今後、昇圧療法の効果を検証する大規模な研究が期待される。その時、介入群と対照群でそれぞれ治療プロトコールの統一、そしてoutocomeに関しては可能な限りhard outcomeを設定、もしくはsoft outcomeを設定するならばマスキングの徹底が必要であろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科