抜管困難の高リスク患者において抜管後HFNC(High-Flow Nasal Oxygen)単独使用に対してHFNCとNIV(Noninvasive Ventilation)併用での効果についての無作為化比較試験

[ Journal Title ]
Effect of Postextubation High-Flow Nasal Oxygen With Noninvasive Ventilation vs High-Flow Nasal Oxygen Alone on Reintubation Among Patients at High Risk of Extubation FailureA Randomized Clinical Trial
Arnaud W. Thille, MD, PhD1,2; Grégoire Muller, MD3; Arnaud Gacouin, MD4; et al
JAMA. 2019;322(15):1465-1475. doi:10.1001/jama.2019.14901

[論文の要約]
ICU患者において抜管後の再挿管リスクは10-15%で、中でもハイリスク群では20%以上と高い。ハイリスク患者に対する再挿管のエビデンスとしては、NIV単独、HFNC単独を比較した試験ではどちらも有意差はないと言われている。(JAMA. 2016;316 (15):1565-1574.)また、マスク酸素とNIV単独、HFNC単独では再挿管率に有意差がなかったとの報告もある。(N Engl J Med 2015; 372:2185-2196)実際の診療では、患者の忍容性や食事などによりNIVとHFNCを組み合わせることもあるが、これまでNIV・HFNCの併用のエビデンスや大規模な研究がなかった。
 本論文は、2017年4月から2018年1月までの期間にフランスの30のICU施設によるopen-labelのランダム化比較試験である。患者群は、24時間以上ICUで挿管され、SBTをクリアした患者である。Inclusion criteriaは、ハイリスクと考慮される65才以上で、慢性心疾患・肺疾患に罹患している患者である。(EF45%以下左室機能不全を含む慢性心疾患、心原性浮腫、心房細動、COPD、肥満低換気症候群、拘束性換気障害) Exclusion criteriaは、自宅でCPAPの利用やNIVでの長期間治療がなされている、慢性的な神経疾患(筋炎、筋無力症)、外傷、予定外抜去である。介入群は、抜管後にすぐNIVの使用を始め、少なくとも1日に4時間〜12時間以上のNIV装着を48時間行った。NIV設定は、最低PS5cmH2O、tidal volume 6-8mL/kg、PEEP5-10cmH2O、SpO2:92%以上に保持する。対照群では、少なくとも48時間以上のHFNC使用を行い、流量:50L/min、SpO2:92%以上に保持、37度に加湿している。再挿管基準を設定し、以下を満たせば再挿管を行う。(重症呼吸不全、昇圧剤使用必要な循環不全、GCS12以下の神経失調、心停止・呼吸停止)
 Primary Outcomeは1週間後の再挿管の割合とし、Secondary outcomeはICU退室時・72時間後・48時間後の再挿管、抜管48時間後から7日以内の抜管後呼吸不全の割合、入院期間・ICU入室期間、ICU・病院・28日・90日死亡率とした。Exploratory Outcomeは、治療開始後1時間の血液ガス、再挿管までの時間、再挿管のクライテリアを適応した患者の割合、再挿管の理由、緊急時のNIV使用、ICU内での再挿管・死亡の割合、再挿管での死亡率とした。Sample sizeは再挿管率を8%の絶対差が生じると設定し590人(検出力80%、α=0.05)と設定、脱落を考慮し10%増やした650人としている。結果は3121人を集め、最終的に648人(介入群:342人、対照群:306人)でランダム化を行った。
 Primary outcomeは、NIV・HFNC併用群はHFNC単独使用群に比して有意に再挿管率を減少させた。(−6.4% [95% CI, −12.0% to −0.9%]; P = .02)
 Secondary outcomeは、7日以内の呼吸不全の割合(21% vs 29%; difference, −8.7% [95% CI, −15.2% to −1.8%]; P = .01) とICU退室時までの再挿管の割合(12% vs 20%, difference −7.4% [95% CI, −13.2% to −1.8%]; P = .009)に関してはNIV・HFNC併用群はHFNC単独使用群に比して有意に低かった。また、48時間・72時間・ICU退室までの再挿管率はHFNC単独群に比してNIV・HFNC併用群は有意に低く、ICU入室期間(11 vs 12; difference, 0.5% [95% CI, −1.6% to 2.6%]; P = .55)、入院期間(23 vs 25; difference, 2.3% [95% CI, −1.4% to 6.1%]; P = .31)も短く、ICU死亡率(6% vs 9%, difference, −2.4% [95% CI, −6.7% to 1.7%]; P = .25)も有意に低い結果となった.
 Exploratory Outcomesは、1時間後の血液ガス(PaO2:FiO2)はHFNC単独群より併用群の方が有意に高かった。(mean [SD], 291 [97] mm Hg vs 254 [113] mm Hg; difference, 37.0 [95% CI, 19.7 to 54.3]; P < .001)一方で高二酸化炭素血症の程度(21% vs 19%, respectively; difference, 1.2% [95% CI, −5.4% to 7.7%]; P = .72)や、再挿管までの時間(difference, −5.0 [95% CI, −42.0 to 32.0]; P = .76)も有意差がなかった。

[Implication]
 本論文を通して、抜管困難の高リスク患者においてNIV・HFNCの併用を行う方が再挿管を減らす可能性が高いと言える。この論文は臨床疑問もpragmaticであり、よくデザインされた論文である。ただしいくつかのlimitationを十分考慮する必要がある。open-labelであり、outcomeもsoft endpointであり、information biasの入り込む余地が多い。フランスのみの研究であり、外的妥当性の低さも指摘できる。今後は多国籍でのRCTやsystematic reviewまでなされると結論はより明確になるだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科