下部消化管出血に対する緊急 vs 待機的内視鏡の有効性と安全性

今回は総合内科からローテーションしている頼高先生による発表です。消化器領域も担っている当院の総合内科ということで以下の論文を選択してくれました。

[ Journal Title ]
Efficacy and Safety of Early vs Elective Colonoscopy for Acute Lower Gastrointestinal Bleeding
Gastroenterology. 2019 Sep 26. pii: S0016-5085(19)41343-7. doi:10.1053/j.gastro.2019.09.010.

[ 論文の要約 ]
・利益相反
藤城光弘氏が武田薬品工業株式会社、アストラゼネカ株式会社、ゼリア新薬工業株式会社、第一三共株式会社より講演料を受領し、武田薬品工業株式会社、EAファーマ株式会社より研究費補助を受け、HOYA株式会社より共同研究資金を受けた。
・背景
American Society for Gastrointestinal Endoscopy:ASGEやAmerican College of Gastroenterology:ACGでは急性下部消化管出血(ALGIB)に対する緊急下部内視鏡は入院後8-24時間以内に施行されたものと定義し、ALGIBに対し緊急下部内視鏡を推奨しているが、ALGIBに対する下部内視鏡の最適な実施タイミングについてのエビデンスはほとんどない。また、実施に際し大腸検査前前処置を十分行うことが推奨されているが、その安全性のデータは限られており、ALGIBに対する下部内視鏡の手順は標準化されていない。本研究はALGIBに対して緊急下部内視鏡が待機的内視鏡に比べ出血源の同定率を上昇させるかを検証し、その安全性についても検討した。
・方法
 多施設、非盲検化ランダム化比較試験とした。日本の15の施設で、来院前24時間以内に中等症から重症の黒色便または下血を来した20歳以上の患者のうち、8時間以内に3回の黒色便があったか、出血性ショックまたは以前のtrialに従って輸血が必要となったかのいずれかを満たす患者を登録し、無作為に緊急下部内視鏡 (入院から24時間以内に施行する) または待機的下部内視鏡 (入院から24-96時間の間に施行する)に1:1に割り付けた。primary outcomeはstigmata of recent hemorrhage:SRH (活動性出血、出血はないが血管断端が確認できる、または凝血塊付着) の同定とした。secondary outcomeは30日以内の再出血、内視鏡治療の奏効、輸血が必要、在院日数、30日以内の血栓症の発生、30日以内の死亡、そして有害事象の発生とした。
サンプル数は、緊急内視鏡でのSRHの同定率を27%以上、待機的内視鏡でのSRHの同定率を9%とし、αを5%(両側検定)、χ2検定(Yatesの補正なし)を用いてstatistical powerを80%(β=20%)として142名と算出した。さらに、drop outや順守不履行の患者を想定して20名を追加した。解析の対象は、ランダム化された後に参加を望まなかった患者や、primary outcomeのデータが提出されなかった患者、下部内視鏡が施行されなかった患者を除いた群とした(modified ITT)。
・結果
2016年7月から2018年5月の間で170人の患者が登録され、162人が無作為に割り付けられた。このうち3人が除外され、159人がmodified ITTに組み入れられた。primary outcomeであるSRHの同定率は、緊急内視鏡を受けた79人のうち17人 (21.5%) 待機的内視鏡群の80人のうち17人 (21.3%)と有意差を認めなかった(difference=0.3, 95% CI, -12.5 to 13.0; P=.967)。secondary outcomeである30日以内の再出血は、緊急内視鏡群で11人 (15.3%)、待機的内視鏡群で5人 (6.7%)発生した (difference=8.6, 95% CI, -1.4 to 18.7)。内視鏡治療の奏効、輸血が必要、在院日数、30日以内の血栓症の発生、30日以内の死亡については両群で有意差は認められなかった。内視鏡の準備中に生じた出血性ショックは、緊急内視鏡群で0人、待機的内視鏡群で2人 (2.5%)発生した。また、大腸検査前前処置と下部内視鏡に関連した有害事象は、悪心や出血の増悪を除き両群とも5%以下で有意差はなかった。全ての有害事象は、研究終了までには改善しており、研究を中断させるような有害事象は発生しなかった。

[ Implication ]
本研究において、著者らは緊急下部内視鏡が待機的内視鏡に比べSRHの発見に寄与することはなく、再出血も減少させなかったとしている。また、安全性についても両群で有意差はなかったとしている。日本の15施設において、2016年から2018年の2年間で、来院前24時間以内に中等症から重症の黒色便または下血を来した20歳以上の170名の患者がALGIBの対象患者としてrecruitされたが、黒色便または下血を主訴に来院した患者数を推測すると、Exclusion criteriaが多岐にわたるため選択biasが懸念され外的妥当性に疑問が生じる。特にCTが撮影された患者が除外されているが、日本においては活動性出血が疑われる患者に対してはCT検査が行われる傾向があると考えられ、緊急下部内視鏡の有用性に影響を与える可能性がある。しかしながら、今回の論文は、これまでの同様の研究の中では、最大規模の多施設前向き研究でありImpactが大きく、ASGEやACGなどで推奨されてきたALGIBに対する緊急下部内視鏡がはたして本当必要なのか再考するきっかけとなるが、内的妥当性、外的妥当性に疑問の余地があり、さらなる検証が必要になる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科