安房地域医療センター合同 Journal Club

安房地域医療センターと合同でJounal Clubを行いました。

〜 EDから帰宅した軽症患者における10日間死亡率とERの混雑度の関連について 〜

[ Journal Title ]
Associations Between Crowding and Ten-Day Mortality Among Patients Allocated Lower Triage Acuity Levels Without Need of Acute Hospital Care on Departure From the Emergency Department .[Ann Emerg Med. 2019;74:345-356.] PMID: 31126618

[ 論文の要約 ]
 EDを受診したがトリアージで軽症と判断し帰宅となった患者におけるED混雑度と10日間死亡率の関連について検討した。ERの混雑度と死亡率についての過去の先行研究では、重症患者を対象としているものが多く軽症患者との関連はあまり知られていない。
 期間は2009年から2016年まで、スウェーデンの大学病院で行われ、2つのEDで実施された。いずれも年間7万人以上の受診患者数を誇る施設であり、医療圏としては広く、200万人をカバーしている。幅広い疾患の診療にあたることのできる施設であり、そのうち1つはレベルIの外傷性センターでもある。
 期間内に上記2施設を受診した18歳以上の患者で、トリアージレベル3-5と判断され、かつ入院適応とならない患者を対象とした。トリアージはスウェーデン国内で一般的とされるRETTSトリアージシステムを使用し、ER混雑度は滞在時間の長さ(ED到着時間(自動入力)〜帰宅時のタイムカードの時間(手動入力))と、占有度合い(患者数/ベッド数(自動入力))を指標とした。データは電子カルテ上の医療データに加え、スウェーデンの住民登録番号制度と連携することで過去のED受診歴などを含む様々なデータ(年齢・性別・トリアージレベル・過去1年間のED受診回数・ACCI score・来院時間・主訴)を収集した。データ解析は死亡群でのみで行うこととした。outcomeは帰宅後10日以内の死亡率とした。
 計1063806人というかなり多くの患者が2つのEDを受診し、そのうち本研究の対象となった軽症に該当した患者は705813人であった。重複受診などを考慮するとその内の623名(0.09%)が10日以内に死亡した。
死亡群と生存群の比較ではトリアージレベル3の患者(63.3% versus 35.6%), ・80歳以上の高齢者(51.4% versus 7.7%) ・ACCI score(median interquartile range 6 versus 0)・救急車での搬送 (59.7% versus 11.0%)、は死亡群で有意に高かった。ED滞在時間別の比較ではEDに4時間以上滞在する患者は特にトリアージ3以上が多く、ED占有度合い別の比較では患者内訳に有意な差はなく、夜間に特に混雑するという結果もなかった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、10日間死亡率はED2時間以内の滞在と比較して8時間以上滞在ではAdjusted Odds Ratio 5.86(95%CI 2.15-15.94)と有意に上昇しており、ED占有率においても4分位中、2分位Adjusted Odds Ratio 2:1.48(95%CI 1.14-1.92),3分位:1.63 (95%CI 1.24-2.14), 4分位:1.53(95%CI 1.15-2.03)と有意に死亡率が上昇していた。

[ Implication ]
 本研究をもって、EDにて軽症とトリアージされ、入院適応とならなかった患者において、ED混雑度が高いことは10日間死亡率上昇と関連することが示された。
過去の研究(Guttmann A ら、BMJ. 2011;342:d2983.)でも同様の結論に至っており本研究を支持する内容であった。
 内的妥当性についてはデータは電子カルテとスウェーデンの住民登録番号制度を使用したことで、10万人を超える患者数ではありながらも、信頼性の高く、脱落の少ない良質なデータを集めることができた。ED滞在時間は様々な原因が関与しており、すべての因子を調整することは困難ではあるが、年齢・性別・トリアージレベル・過去1年間のED受診回数・ACCI score・来院時間・主訴などの、臨床の感覚から関連が強いと思われる因子については調整がなされている。ただし、ED滞在時間については、検査内容や診療にあたった医療スタッフなど、様々な関連因子が予想されるが、本研究ではED滞在時間の内訳については言及はなく、調整されていない交絡因子が存在している可能性も高い。また、死亡群のうち2.3%は医師の診察を受けずに帰宅しており、生存群においても同様の患者がいた可能性は高い。ED占有度合いについても、測定方法は様々であるため本研究とは異なる指標を用いた場合は異なる結果を得る可能性もある。
外的妥当性については、スウェーデン1カ国・2施設のみの研究ではあるものの、医療圏200万人という広さをカバーし、様々な疾患にも対応可能な施設での結果を用いている。
 ただし、トリアージシステムはスウェーデン以外ではあまり一般的ではないRETTSシステムを用いており、実際、異なるトリアージシステムを使っていた先行研究とは比較が困難であった。スウェーデンのように住民登録番号制度を用い、そのデータを使用できる状況も珍しく、スウェーデン国内やスウェーデンと同様のトリアージ・データ収集システムのもとにおいてのみ、外的妥当性の高い研究と言える。
 過去の研究の多くは重症患者・入院患者を対象としているのに対して、本研究では軽症患者に焦点をあてており、ED混雑度と短期死亡率の関連について重要な結論を示すことができた。
なお、本研究において軽症患者を帰宅させる際に死亡リスクについて説明をされていたのはわずか8例にすぎなかった。EDで軽症とトリアージをされ、帰宅可能と判断した場合であっても、ED混雑時は、特に、80歳を超える高齢者、並存疾患の多い患者、救急車で来院した患者では注意を要することが求められる。
EDが混雑することは様々な関連因子が存在すると考えられる。今後もEDが混雑することがなぜ短期死亡率増加に関連するのか、さらなる研究が望まれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科