新生児における血小板輸血の閾値に関するRCT

Journal Title
Randomized Trial of Platelet-Transfusion Thresholds in Neonates.
Curley A, et al. N Engl J Med. 2019 Jan 17;380(3):242-251. PubMed PMID: 30387697.

Summary
出血予防目的での血小板投与は重度の血小板減少を伴う未熟児においてしばしば行われるが、血小板輸血は有害性も伴う。これまで適切な血小板輸血の閾値に関する質の高い研究は存在しなかったが、本研究はこれを明らかにすることを目的として実施された。
研究デザインは2011年6月から2017年8月まで英国・オランダ・アイルランドの3カ国で実施された多施設オープンラベルランダム化比較試験である。在胎34週未満で出生し、血小板輸血を必要とする重度の血小板減少(血小板数<5万)を発症した新生児660人(出生時体重(中央値)740g、在胎週数(中央値)26.6週)が、血小板数5万以下で血小板輸血する群(high-threshold群)と血小板数2.5万以下で血小板輸血する群(low-threshold群)の2群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化の過程で子宮内発育不全・在胎期間について最小化法が用いられた。主要評価項目はランダム化から28日以内の死亡もしくは重篤な出血イベントである。329人ずつの割り付けで80%の検出力が得られると推定され、low-threshold群でのイベント発生率が20%、high-threshold群での発生率が12%と見積もられた。87人が登録された時点での中間解析でlow-threshold群でのイベント発生率は18%であった。最終的なイベント発生率はhigh-threshold群で61/329(19%)、low threshold群で85/324(26%) [OR 1.57; 95% CI 1.06-2.32]であり、high-threshold群において有意なイベント発生率の上昇を認めた。

Implication
出血リスクの高い未熟児を対象として行われた大規模な多施設RCTにおいて、血小板輸血を積極的に行う介入が死亡あるいは出血イベント発生を増加させたという結果は、積極的な血小板輸血がイベントの発生を減らすという当初の仮説を覆すものであり、大きなインパクトを持つ。事前に公開されたプロトコルに忠実に従い、3000人以上の非血液腫瘍患者の新生児をスクリーニングの対象として6年間にわたって実施された本研究の結果は貴重なものである。
本研究では主要評価項目が複合アウトカムとなっているが、「輸液・輸血投与を必要とする出血」のように個別の臨床的評価が必要となるソフトエンドポイントがアウトカムに含まれており、研究デザインがオープンラベルとなっている点と合わせると、情報バイアスが発生しやすい状態となっているため注意が必要である。保護者から同意が得られない等の理由でランダム化以前の脱落が多く、ここに選択バイアスが生じた可能性はある。28日以内の退院等に伴う追跡不能例がイベント発生なしと扱われている点は、追跡不能例をイベント発生ありと見なして行われた事後解析においても同等の結果が得られているとはいえ、その実際のイベント発生率次第ではアウトカムに影響を及ぼしうる。3.2%の血小板輸血はプロトコルに従わない予定外の追加の輸血であり、プロトコル上で血小板輸血が適応となる124回(low-threshold群で30回、high-threshold群で94回)は、実際には輸血が実施されなかった点にも配慮する必要がある。
上記のバイアスを除けば、一般化可能性が高い本研究結果に基づいて血小板輸血を血小板数2.5万まで控えるというプラクティスは妥当であると考えられ、今後の追加のRCTあるいは観察研究での検証が待たれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科