2021.03.19 抄読会

担当:初期研修医 河合太樹先生/指導 劉丹先生

論文:
Individualized PEEP to optimise respiratory mechanics during abdominal surgery: a pilot randomised controlled trial
Ana FB, Juraj S, et al.
British Journal of Anaesthesia, 125 (3): 383e392 (2020)

背景
術中の高いdriving pressure(ΔP)は、術後肺合併症(postoperative pulmonary complication: PPC)を増加させることが知られている。しかしこれまでどの程度のPEEPをかけるのが術中無気肺や肺過膨張の発生を最小限に留め、PPCを予防するのに適切であるのか明らかになっていなかった。先行のPROBHILO trialではPEEPを≦2 cmH2Oに保つ群と≦12 cmH2Oに保つ群と比較し、どちらもPPCの発生率に有意差を認めないものの、術中の低血圧の発生及び昇圧剤の必要性についてPEEPを≦2 cmH2Oに保つ群では有意に少なかった結果をもって、開腹手術においてPEEPを≦2 cmH2Oに保つことが今までに推奨されてきた。しかし一方でPEEPを低く設定することで無気肺を誘発するとの研究もあるため、術中のPEEP調節を患者間で個別に行うことがΔPを減少させると仮定

方法
本研究は2016年6月〜2017年3月において、Massachusetts General Hospital, University of Colorado Hospital, Mayo Clinic の3施設で行われた多施設前向き無作為化比較試験である。
対象は2時間以内の腹腔内または骨盤内手術が予定された18歳以上で、Assess Respiratory Risk In Surgical Patients in Catalonia' (ARISCAT) リスクスコアが26点以上となるPPCリスクが中〜高リスクの患者となる。
介入群においては、静的コンプライアンスを最大化する方法(PEEPmaxCrs、Crsが最大値を取る所にPEEPを設定)、呼気終末肺内外圧差を用いる方法(PEEPptp-ee、呼気終末肺内外圧差(Ptp-ee)≒ PEEP−食道内圧(Pes-ee)、Ptp-eeが1 cmH2OとなるようにPEEPを調節)の異なる2つの方法が使用された。コントロール群においてはPEEP≦2 cmH2Oと設定された。
主要評価項目はΔP、Ptpee、Crs、PEEPの4つの指標で、副次評価項目は各種の血清肺障害マーカー及び術後7日以内でのPPCの発生と設定された。
検出力は80%と設定された。サンプルサイズは先行研究から得られた結果に基づき、3群間でΔPに4 cmH2Oの差を検出するために、各群に13人が必要と算出された。
また、統計解析においては、4つの主要評価項目に対してBonferroni多重比較法を使用された。

結果
患者46人が無作為に3群に割り付けられ、主要評価項目は以下の結果となった:
Driving pressure(ΔP、cmH2O):介入群12.0(10.0-15.0)、PEEPmaxCrs 群8.0(7.0-10.0)、PEEPptp-ee 群9.0(7.8-10.1)、P=0.011
呼気終末肺内外圧差(Ptp-ee、cmH2O):介入群-8.3(-13.0--4.0)、PEEPmaxCrs 群2.0(-0.7-4.5)、PEEPptp-ee 群1.0(1.0-2.3)、P<0.001
静的コンプライアンス(Crs、ml/cmH2O):介入群39.0(32.9-43.4)、PEEPmaxCrs群47.7(43.2-68.8)、PEEPptp-ee群49.0(44.6-58.7)P=0.010
PEEP(cmH2O):介入群2.0(0.0-2.0)、PEEPmaxCrs 群10.0(6.5-15.0)、PEEPptp-ee 群11.0(9.5-14.0)、P<0.001

結論
個別PEEP設定により、ΔPを減少させ、PPCの発生を抑える効果が期待できるが、実際の肺合併症を含めてハードアウトカムに及ぼす影響があるかどうかについて大規模なRCTが必要と思われる。

論文の内容以外にも、様々なグラフを使って呼吸生理の基本概念を含めて説明していただきましたので、大変勉強になりました。
河合先生、劉先生、ありがとうございました。

亀田総合病院 初期研修医 金先生、麻酔科 後期研修医 荻野

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療