2021.03.23 麻酔科抄読会
Bag-Mask Ventilation during Tracheal Intubation of Critically Ill Adults, Jonathan DC et al, N Engl J Med 2019; 380:811-821
担当:竹下先生、柘植先生
手術室外での気管挿管は多くの場合RSI(rapid sequence induction)で行われており、その際の合併症として低酸素血症が最も多いことが知られています。RSIで導入の際、マスク換気を行うことが誤嚥のリスクを上昇させるかどうかは、今まで議論の対象となってきました。
今回の論文は、米国の7施設(ICU)においてRSIで気管挿管を行う際に、バッグで陽圧換気を行う群と行わない群で、麻酔導入の間〜挿管後2分間での酸素飽和度を比較したRCTです。
P:ICU入室中での18歳以上、かつ挿管が必要と判断された患者
I:酸素15L/minで前酸素化し1分間に10回の換気回数で最小限のマスク換気
C:マスク換気を行わない
O:挿管2分後までの酸素飽和度の最低値
結果は、介入群で有意に酸素飽和度の中央値が低く(96% vs 93%, P=0.01)、多変量解析で両群間の酸素飽和度平均差は4.7%(Post hoc 解析での調整平均差は5.2%)となりました。また導入から挿管2分後まででSpO2<80%となったのは介入群で10.9%、対照群で22.8%(RR 0.48)であり、誤嚥の発生率と胸部X線写真での新規浸潤影は両群間で差がないという結果となりました。
質疑応答では2群で誤嚥の頻度に有意差なかったという結果と出ているが、介入群5例 vs 対照群8例という数字からでは単純に差がないと判断できないのでは、といった指摘や、最近ではクリコイドプレッシャーを行わない風潮があるが臨床的には効果がある、というご意見など様々な意見が聞かれました。
RSI時のマスク換気については状況に応じ考慮する必要があり、最小限の陽圧と換気回数であればある程度は許容できるのかも知れません。
竹下先生、柘植先生、お疲れ様でした。
亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 藤井真理映
このサイトの監修者
亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収
【専門分野】
麻酔、集中治療