Anesthesiology誌:健康な若年成人におけるプロポフォール、デクスメデトミジン、フェンタニルの鎮静用量が記憶および疼痛に及ぼす影響:7テスラ機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた無作為化、対照、単盲検クロスオーバー研究
2026.01.27 麻酔科抄読会サマリー
Vogt KM, Simmons MA, Reddy SN, et al. Effects of Sedative Doses of Propofol, Dexmedetomidine, and Fentanyl on Memory and Pain in Healthy Young Adults: A Randomized, Controlled, Single-blind Crossover Study Using Functional Magnetic Resonance Imaging at 7 Tesla. Anesthesiology. 2025;143:313–329.
DOI:10.1097/ALN.0000000000005489.
<目的>
鎮静薬は記憶形成および疼痛知覚に影響を及ぼすが、疼痛刺激を伴う状況で各薬剤が脳内ネットワークに与える影響は十分に解明されていない。本研究は、軽度鎮静レベルのプロポフォール、デクスメデトミジン、フェンタニルが、記憶エンコーディングおよび疼痛処理に関与する脳活動と翌日の記憶成績に与える影響を、7テスラ機能的MRIを用いて比較評価した。
<PICO>
P:18–40歳の健常成人ボランティア92名
I:プロポフォール(効果部位濃度1.0 µg/mL)、デクスメデトミジン(0.15 ng/mL)、フェンタニル(0.9 ng/mL)による軽度鎮静
C:薬剤非投与セッション(クロスオーバー)
O:主要評価項目:翌日の記憶再認成績(d′)
副次評価項目:疼痛強度・不快度、作業記憶課題成績、fMRIにおける記憶・疼痛関連脳活動
<方法>
無作為化・単盲検・プラセボ対照クロスオーバー試験。被験者は単語想起課題中に電気刺激による疼痛を受け、同時にfMRI撮像を実施した。翌日に記憶テストを行い、信号検出理論に基づくd′で評価した。
<結果>
- 翌日記憶成績(d′):プロポフォールで有意に低下(約1.16→0.51)。デクスメデトミジン、フェンタニルでは有意差なし。
- 疼痛評価:プロポフォールおよびフェンタニルで疼痛強度が軽度低下。デクスメデトミジンでは変化なし。
- fMRI:
- プロポフォール:海馬・扁桃体の記憶関連活動低下、島皮質・前帯状皮質など疼痛関連活動低下。
- デクスメデトミジン:海馬活動低下は認めるが、疼痛関連領域の変化は乏しい。
- フェンタニル:海馬・扁桃体の記憶関連活動低下、一次体性感覚野・島皮質の疼痛活動低下。一方で帯状回・海馬の活動増加も観察。 - 作業記憶課題:デクスメデトミジンで低下。
<考察・臨床的意義>
プロポフォールは軽度鎮静レベルでも記憶形成を抑制し、疼痛知覚および関連脳活動を低下させることが示された。一方、デクスメデトミジンは記憶成績への影響は小さいが注意・作業記憶に影響を及ぼす可能性がある。フェンタニルは鎮痛効果を示す一方で、記憶関連領域の活動変化が複雑であり、疼痛と記憶の相互作用を修飾する可能性が示唆される。
<会場での議論>
- この研究の新規性は?
→先行研究と比較して、疼痛刺激を加えた状態での脳の活動をfMRIを使用して評価する、より臨床に近い形での鎮静・鎮痛薬の効果を評価できた点が新規性があると考えられる - 今回の研究で使用されていた薬剤の効果部位濃度は臨床で使用する濃度よりも低いが、今回の研究の意義はどこにあるか?
→手術などの侵襲がない状態なので臨床で使用する濃度にしてしまうと過鎮静のリスクが高い。また、疼痛刺激が加わったときの脳の活動をfMRIで評価したかった。先行研究の条件と比較をしたかったと考えられる。 - フェンタニルは疼痛を抑えたが、記憶や情動は抑制しなかったという結果についてどう考えるか?
→フェンタニルのみだと疼痛が抑えられるが、不快な記憶は残ることが今回の研究結果から示唆される。これは術後せん妄などとの関連がある可能性も考えられる。 - 通常使用するMRIは3Tだが、7TのMRIはどのような性能か
→7Tのものは空間解像度が非常に高いため、脳血流が増加している領域などをリアルタイムで撮像できる強みがある
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔