NEJM誌:重症患者の気管挿管:ケタミンVSエトミデート

2026.01.19 麻酔科抄読会サマリー

Casey JD, Seitz KP, Driver BE, et al. Ketamine or Etomidate for Tracheal Intubation of Critically Ill Adults. N Engl J Med. 2025; DOI:10.1056/NEJMoa2511420.

<目的>
重症患者の緊急気管挿管ではエトミデートが広く使用されているが、副腎抑制による死亡リスク増加が懸念されている。一方、ケタミンは血行動態安定性が期待されるが、安全性と予後改善効果は不明である。本研究は、挿管導入薬としてケタミンとエトミデートを比較し、死亡率および循環合併症への影響を検証した。

<PICO>
P:米国14施設のED・ICUで緊急気管挿管を受けた成人重症患者(n=2365)
I:ケタミン静注による導入
C:エトミデート静注による導入
O:主要評価項目:28日以内の院内死亡
  副次評価項目:挿管時循環虚脱(SBP<65 mmHg、昇圧薬増量、心停止)

<結果>

  • 28日死亡率:ケタミン群 28.1%、エトミデート群 29.1%(差 −0.8%、P=0.65)
  • 循環虚脱:ケタミン群 22.1%、エトミデート群 17.0%(差 +5.1%)
  • 最低収縮期血圧、低血圧イベント、心室頻拍はいずれもケタミン群で多かった
  • 人工呼吸器離脱日数、ICU滞在日数、昇圧薬離脱日数に差は認めなかった
  • 敗血症患者および高重症度群では循環虚脱リスク増加がより顕著であった

<考察・臨床的意義>
本試験は過去最大規模のRCTであり、ケタミン使用が死亡率を低下させるという仮説を支持しなかった。むしろ、挿管周囲の循環不安定性はケタミンで増加しており、従来の「ケタミンは血行動態に安全」という認識を再考する必要がある。副腎抑制を理由にエトミデートを回避する戦略の妥当性は、本試験では支持されなかった。

<会場での議論>

  • ケタミンは敗血症性ショック患者において内因性カテコラミンを枯渇させるため、ショック患者での血圧低下は妥当な結果と考えられる。エトミデートは、沖縄県で危険ドラッグの成分として検出された経緯があり、国内での承認は困難と思われる。
  • 挿管前後で使用された昇圧薬の種類についての記載はあったか?
    →本文には詳細な記載がなかったが、supplementary appendixには昇圧薬をノルエピネフリンに換算する式(Kotani et al, Critical Care, 2023)が記載されており、それを元に比較されている。
  • エトミデートによる副腎機能抑制についての評価は行われていたか?
    →厳密な評価(コルチゾール測定など)は行われていなかったと思われる。従来、エトミデート誘発性副腎機能不全が死亡率を増加させると懸念されていたため、本研究で死亡率に有意差がなかったことが、その懸念に対する一つの答えとなっている。
  • それぞれの薬剤の合併症に対する予防的対応(例:ケタミン群での昇圧薬の予防的投与)がすでに行われている場合、純粋な薬剤効果の差として解釈するのは難しいのではないか?
    →施設間の差異はランダム化により調整されているが、非盲検試験であるため、割り付け後の管理(昇圧薬投与のタイミングや用量など)には影響を与えた可能性がある。しかし、これは実臨床を反映した実用的な比較として評価できる。

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔