Anaesthesia誌:BMIに基づくPEEP調整による肺保護効果(RCT, 2025)

2025.9.25 麻酔科抄読会サマリー

Selpien H, Penon J, Thunecke D, et al.
Adjustment of positive end-expiratory pressure based on body mass index during general anaesthesia: a randomised controlled trial. Anaesthesia. 2025; doi:10.1111/anae.16656

目的
全身麻酔下での術中換気において、PEEPを一律で5 cmH₂Oに設定する従来法と比較し、BMI/3に基づいて調整する方法が、駆動圧を低下させ術中・術後の肺含気状態の悪化を抑制できるかどうか

PICO
P:予定手術を受ける成人患者(非心臓胸部・非神経外科手術、気管挿管を要する全身麻酔、手術時間2時間以上、n=60 )
I:PEEPをBMI/3 cmH₂Oに設定
C:PEEPを一律5 cmH₂Oに設定
O:主要評価項目:術中のPEEP調整後の一回換気量7 ml/kg予測体重での量規制換気中の平均駆動圧
  副次評価項目:呼吸コンプライアンス、術後肺エアレーションスコア(肺エコー)、新規無気肺、PACU入室時SpO₂、酸素投与要否、術後肺合併症

結果
・駆動圧:PEEP-BMI/3群 7.9 cmH₂O vs PEEP-5群 8.9 cmH₂O(p=0.027)
・コンプライアンス:PEEP-BMI/3群 0.95 vs PEEP-5群 0.83 ml/cmH₂O/kg PBW(p=0.020)
・新規無気肺:PEEP-BMI/3群 0例 vs PEEP-5群 7例(p=0.011)
・PACU到着時SpO₂:PEEP-BMI/3群 94% vs PEEP-5群 92%(p=0.049)
・酸素補助必要例:PEEP-BMI/3群 6例 vs PEEP-5群 13例(p=0.036)
・術後肺合併症全体: PEEP-5群11例 vs PEEP-BMI/3群7例(p=0.399)

会場での議論
・この研究での新しい知見は何ですか?
→従来、PEEPを段階的に調整して最適値を見つける方法や、FiO₂の20倍(FiO2:0.5ならPEEP:10cmH₂O)で設定する方法などが提案されてきた。本研究はBMI/3という簡便な指標を提示した点が新しい。ただし、対照群のPEEP 5cmH₂Oは比較的低値であり、差が出やすい設定といえる。また、主要評価項目の駆動圧の差は約1cmH₂Oと小さく、臨床的意義については議論の余地がある。さらに、BMIに応じてPEEPが上昇することで最高気道内圧も上昇する点は懸念材料である。一方で、実臨床では漸減法による最適PEEP決定は時間がかかるため、BMI/3という簡便な指標には実用的価値があるかもしれない。

・実際の麻酔管理でBMIによってPEEPを変えるべきか?
→患者個別の調整は重要だが、一律にBMI/3を適用することには慎重であるべきである。本研究にはいくつかの懸念点がある。第一に、リクルートメント手技の方が呼吸器合併症を減らすという報告もあり、PEEP調整だけでは不十分な可能性がある。第二に、BMIに比例してPEEPを上げる本手法では最高気道内圧も上昇してしまう。最高気道内圧の上昇は呼吸器合併症のリスク因子となりうるため、症例数が増えると有害事象が増加する可能性がある。第三に、本研究は症例数が60例と限られており、術後肺合併症全体では有意差が出ていない。これらの点から、BMI/3は普遍的に適用すべき方法とは言えない。

・腹腔鏡下のオペは含まれているか?また術中体位や麻酔管理に制限はあったのか?
→腹腔鏡手術は除外されている。体位は全例仰臥位で統一されていた。その他の麻酔管理は各施設の裁量に委ねられていた。

・絶対値としてのPEEPによる合併症の差はあるか?
→論文では低血圧イベントなどの血行動態への影響について群間差は認められなかったと報告されている。

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔