Anesthesiology誌:婦人科腹腔鏡手術におけるピリドキシンによるPONV予防効果(RCT)

2025.9.4 麻酔科抄読会サマリー

Pyridoxine Prevents Postoperative Nausea and Vomiting in Gynecologic Laparoscopic Surgery: A Double-blind Randomized Controlled Trial
Anesthesiology. 2025;142:655–65.
doi:10.1097/ALN.0000000000005354

目的
婦人科腹腔鏡手術後に高頻度で発生する術後悪心嘔吐(PONV)に対して、ピリドキシン(ビタミンB6)を標準的予防薬(デキサメタゾン+オンダンセトロン)に追加することで予防効果を持つかを検証した。

PICO
P:18〜65歳の女性、ASA I–III、選択的婦人科腹腔鏡手術を受ける患者(中国・単施設、n=240)
I:麻酔導入前にピリドキシン200mg 静注+標準予防(デキサメタゾン10 mg、終了前にオンダンセトロン8 mg)
C:生理食塩水静注+同じ標準予防
O:主要評価項目:術後24時間以内のPONV発症率
 副次評価項目:悪心・嘔吐の個別発症率、重症度、救済制吐薬の使用率、疼痛スコア、IL-6・substance P濃度、合併症

結果
・主要評価項目:PONVはピリドキシン群16.7% vs 対照群35.8%(RR 0.47, 95%CI 0.29–0.74, P=0.001)
・悪心:12.5% vs 35%(有意差あり、p<0.001)
・嘔吐:9.2% vs 15.8%(有意差なし)
・悪心の中等度・重度例はピリドキシン群で有意に少なかった
・IL-6やsubstance P濃度に有意差なし
・有害事象:術中低血圧はピリドキシン群で少なかった(31% vs 53%, p=0.001)、その他の副作用や神経症状はなし

会場での議論
・ピリドキシンも過剰投与は末梢神経障害を発症することが知られている。妊娠悪阻に対してピリドキシンを投与することがあり、比較的妊婦にも使用実績があると思われるが、今回の論文での投与量(200mg)での影響に関しては未知であり、その点が懸念される。
・日本でピリドキシンはPONVに対する適応が通っていないが、ドロレプタンが使用できない状況などでは効果を発揮する可能性が高い。比較的安価であることもよい点であると考えられた。
・ビタミンB6は血中濃度測定が可能であり、評価項目の1つに入れてもよかったのではないか。

結論として、ピリドキシンは標準的予防薬に追加することでPONVの発症率を有意に低減させ、特に悪心の抑制に効果があった。今後の臨床導入に向けて、多施設研究による検証が求められる。

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔