NEJM誌:心臓血管外科手術におけるANH(希釈式自己血輸血)のランダム化比較試験
2025.7.29 麻酔科抄読会サマリー
A Randomized Trial of Acute Normovolemic Hemodilution in Cardiac Surgery
N Engl J Med 2025;393:450-460.
doi: 10.1056/NEJMoa2504948
<目的>
希釈式自己血輸血(ANH: Acute Normovolemic Hemodilution)の有効性と安全性を評価し、ANHが赤血球輸血の必要性を減少させるかどうかを検証した。
<PICO>
P:全ての成人患者で人工心肺下の心臓血管外科手術予定者(北米、南米、ヨーロッパ、アジアの11カ国32施設)
I: ヘパリン投与前に全血(650ml以上)採取、輸液
C: 各施設の手順
O: 主要評価項目:1単位以上の赤血球輸血を輸血された患者の割合
副次評価項目:AKI、出血関連合併症、虚血性合併症、手術30日以内の死亡
<結果>
・登録患者: 2010 例(ANH群 1010名、通常群 1000名)
・主要評価項目:ANH群 27.3%、通常群 29.2%
(相対リスク 0.93;95%信頼区間[CI] 0.81~1.07;P=0.34)
・輸血されたRBC単位数の中央値は両群とも2単位
結論:心臓手術を受ける成人患者において、ANHは有害事象のリスクを増大させないが、赤血球輸血を受ける患者数を優位に減らす効果はない。
<会場での議論>
・RBC輸血がされた群とされていない群でRBCの輸血量の中央値は2単位で優位な差はなかったが、タイミングはどうか?(術中の輸血量は減っているのか?)
→術中の投与量はANH群では少ない傾向ではあったが、これは麻酔科医が盲検化されていないことによるバイアスな可能性もある。(ICU医師は盲検下されており、その影響かICUではあまり輸血量に2群間で傾向の差もない。)
・研究実施場所によって輸血の1単位あたりの容量が違うので、今後ANHの研究においては、輸血量の統一の検討が必要。
・本研究ではRBCの輸血量がprimary outcomeだったため、有意差なしという結果になったが、FFPや血小板輸血に着目すると、有意差が出る可能性はあるのではないか。
・一方で、心臓手術では輸血量が多くなりやすいため、必要な輸血量をカバーするには回収血量を800~1000mlなどもっと多い量に設定する必要がある可能性があるのではないか。
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔