Anesthesia & Analgesia誌:睡眠時無呼吸症候群を有し、減量手術を受ける病的肥満患者におけるスガマデクスVSネオスチグミンによる手術室退室時間:前向き二重盲検ランダム化比較試験
2025-3-11 麻酔科抄読会サマリー
担当:金
Sugammadex vs. Neostigmine in Morbidly Obese Patients with OSA Undergoing Bariatric Surgery: A Prospective, Double-Blinded, Randomized Trial
Ajetunmobi O, et al. Anesthesia & Analgesia 2024. 140(3): 568–576.
https://doi.org/10.1213/ANE.0000000000007013
PICO
P:OSAを有し、選択的減量手術を受ける成人患者
I:Sugammadex 2 mg/kg(実体重)
C:Neostigmine 2.5 mg + Glycopyrrolate 0.4 mg
O:拮抗薬投与からOR退室までの時間
背景
SugammadexはRocuroniumによる筋弛緩を迅速に拮抗する薬剤であり、Neostigmineと比較して残存神経筋遮断(Residual Neuromuscular Blockade, RNMB)のリスクを低減できる可能性がある。OSAを有する肥満患者の減量手術では、術後呼吸器合併症が高率に存在する。Sugammadexがこの集団においてNeostigmineよりも速やかな回復をもたらし、OR退室時間を短縮するかどうかを検討した。
方法
本研究は、トロントで実施された前向きの二重盲検ランダム化比較試験である。対象はOSAを有する肥満患者で、全身麻酔下で選択的減量手術を受ける成人とした。試験では、患者を1:1の割合で無作為に割り付け、一方の群にはSugammadex 2 mg/kgを、もう一方の群にはNeostigmine 2.5 mgとGlycopyrrolate 0.4 mgを投与した。周術期の管理は両群で統一し、筋弛緩の評価には加速度式TOFモニターによるTOFカウントを用いた。拮抗薬の投与はTOFカウント≧2で行われ、抜管の判断は麻酔科医が行った。
主要評価項目は拮抗薬投与からOR退室までの時間とし、その他の評価項目として、抜管までの時間、PACU滞在時間、術後疼痛スコア、術後合併症などが含まれた。
結果
Sugammadex群とNeostigmine群の間で OR退室時間に有意差は認められなかった。それ以外の評価項目(抜管時間、PACU滞在時間、術後疼痛スコアなど)に関しても両群間で大きな差はみられなかった。
結論
OSAを有する肥満患者の減量手術において、SugammadexはNeostigmineと比較してOR退室時間を短縮しなかった。
抄読会での議論
①筋弛緩モニタリングの問題点
本研究では、筋弛緩の評価においてTOFカウントのみが用いられ、TOF比(TOFr)≧0.9の確認がなされていなかった。標準的な麻酔管理では、TOFr ≧0.9を確認してから抜管することが推奨されるが、本研究ではその基準が明確ではなかった。
②統計学的検出力の問題
先行研究では、SugammadexによってNeostigmineよりも約4分のOR退室時間短縮が報告されていた。しかし、本研究ではその差が認められなかった。標本数が不足しており、統計学的検出力の問題が影響した可能性がある。
③デザイン上の問題点
当研究ではTOFratioの報告がないうえ、抜管基準が不明確であり、術後の酸素使用やCPAP使用などにより真の呼吸器合併症がマスクされている可能性が懸念された。
④臨床的意義
Sugammadexは高価である一方、Neostigmineは約4ドルと安価である。現在のガイドラインでは、TOFr 0.4~0.9の範囲であればNeostigmineとSugammadexのいずれも使用可能とされている(低いエビデンスレベル)。本研究ではいくつかの問題を抱えながらも、OSAを有する肥満患者においてNeostigmineが十分に使用可能であることが示唆された。
文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔