J Neurosurg Anesthesiol誌:覚醒下開頭術におけるレミマゾラム/フルマゼニル対プロポフォール群の術中覚醒時間を比較した前向きランダム化比較試験

2025.3.13 麻酔科抄読会サマリー
担当:初期研修医 洪
指導:室内

Prospective Randomized Controlled Trial Comparing Anesthetic Management With Remimazolam Besylate and Flumazenil Versus Propofol During Awake Craniotomy Following an Asleep-awake-asleep Method
Takehito Sato et al., J Neurosurg Anesthesiol. 2025 Jan 1;37(1):40-46.
https://doi.org/10.1097/ana.0000000000000975

概略
レミマゾラムはベンゾジアゼピン系に分類される超短時間作用型の鎮静薬で2020年に日本で使用が開始された、新しい薬剤である。
覚醒下開頭脳腫瘍手術において、鎮静薬としてレミマゾラムを使用した場合と従来通りプロポフォールを使用した場合で術中に覚醒するまでの時間を比較した、単施設非盲検ランダム化比較試験である。

背景
覚醒下開頭術は、脳の言語野などの機能的に重要な領域にある脳腫瘍を切除する際に、腫瘍の最大限の除去と神経学的損傷の最小化を目的として実施される。
この研究は、レミマゾラムとフルマゼニルを併用した麻酔管理とプロポフォールを使用した麻酔管理を比較し、覚醒下開頭術中の覚醒時間とその有効性に関して評価した。

方法
この研究は単施設非盲検ランダム化比較試験で、選択的覚醒下開頭術を受ける患者をレミマゾラムとフルマゼニルによる拮抗(R群)またはプロポフォール(P群)のいずれかにランダム化した。
主要評価項目は覚醒までの時間で、副次評価項目は、麻酔導入時の意識消失までの時間、術中合併症(疼痛、高血圧、発作、悪心、嘔吐、遅延覚醒)の頻度、および術後悪心・嘔吐とした。術中の課題遂行能力は数値評価スケール(NRS)を用いて評価した。

結果
58人の患者が登録され、そのうち52人(各群26人)が有効性分析に利用可能だった。
R群の患者はP群よりも平均覚醒時間が速く(890.8±239.8秒 対 1075.4±317.5秒; P=0.013)、術中課題遂行能力がより高く安定していた(NRSスコア 8.81±1.50 対 7.69±2.36; P=0.043)。また、麻酔導入時の意識消失も、レミマゾラムがプロポフォールよりも速かった。(105.5±19.82秒 対 252.1±99.32秒; P<0.001)。その他には両群とも重大な術中合併症はみられなかった。

結論
この研究結果から、レミマゾラムは、プロポフォールと比較して覚醒下開頭術中の覚醒がより速く、また術中課題遂行能力もより良好であることが示された。レミマゾラムはフルマゼニルで拮抗できるという利点があり、これによって覚醒の質と信頼性が向上すると考えられる。新薬であるレミマゾラムは現在コストが高いものの、より信頼性の高い質の高い覚醒を提供できるため、費用対効果が良い可能性がある。本研究では、フルマゼニル投与に関連する痙攣発作は観察されなかったが、特にてんかんに対する覚醒下開頭術においては、レミマゾラムの麻酔効果を拮抗するためにフルマゼニルを投与する際に痙攣発作を誘発する可能性があるため注意が必要である。
結論として、レミマゾラムとフルマゼニルの組み合わせは、覚醒下開頭術の麻酔-覚醒-麻酔において有用な麻酔法となる可能性がある。

抄読会での議論・意見
・awake craniotomyについて
プロポフォール群で覚醒までの時間がかかっている理由として一つ考えられるのは、頭皮ブロックに作用時間の短いキシロカインを使用している可能性があるのではないか
→覚醒させるまでの間にキシロカインによる頭皮ブロックの効果が消失している可能性は考えられる。結果的に術中のプロポフォールとレミフェンタニルの投与量が多くなり、覚醒までの時間がかかり、レミマゾラムの方が有意という結果になっている可能性は考えられる。

・blindできていないが、どうすればよいか
→レミマゾラムは無色透明、プロポフォールは白色であり外観でも判別ができてしまう、かつ投与量や投与速度でも予想ができてしまうのでblindは難しいと考える。

・レミマゾラムをフルマゼニルで拮抗するときは再鎮静のリスクがあるが、今回の研究ではどうだったか
→今回の研究では自発呼吸(呼吸数8回/min)が出てからフルマゼニルを投与しているため基本的には再鎮静がみられなかったが、筆者も再鎮静の点については考慮していた。

・麻酔から覚醒させるタイミングなどは明確な基準があったか
→論文中には明確な記載はみられなかったが、麻酔から覚醒させるタイミングは硬膜が露出してから麻酔深度を浅くしていた。
awake craniotomyを経験したことのある麻酔科医の意見では、帽状腱膜と硬膜切開の時が疼痛があるため、硬膜切開した後、硬膜を固定をしている間に麻酔深度を浅くしていた。麻酔深度を浅くして覚醒に向かうタイミングは施設によって異なると思われる。

・術中の嘔気が3点ピン固定をするawake craniotomyの重要なポイントだが、今回の研究ではレミマゾラムの方が有意差はないまでもやや嘔気が多いようだが
→サンプルサイズが小さいため有意差がでていない可能性はある。今回の研究では覚醒までの時間をprimary endpointに設定しているため、レミマゾラムとプロポフォールの使用でPONVのイベントが増えるかはPONV発生率をprimary endpointに設定した新たな検討が必要と考えられる。

・フルマゼニルでリバースして覚醒させ、タスクをさせているが、再入眠させるときの薬剤は何を使用していたか 
→フルマゼニルが残存しているため、就眠を得るためのレミマゾラムの必要量は増えることが予想されるが、今回の論文では投与量などの記載はなかった。

文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 竹下

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔