Journal of Anaesthesia誌:小児腹腔鏡手術後の覚醒時せん妄予防に関して異なる薬剤を使用した際の効果を比較したRCT
2025-03-06 麻酔科抄読会サマリー
担当:初期研修医 梶川
指導:柘植
Effect of intravenous different drugs on the prevention of restlessness during recovery period of pediatric laparoscopic surgery: a randomized control trial
Zhi-Jie Liang et al, Journal of Anaesthesia 39 (1): 15-22 (2025)
DOI: 10.1007/s00540-024-03410-9.
2025年月にJournal of anesthesiaに掲載された、デクスメデトミジンとケタミンが小児の腹腔鏡手術後の覚醒時せん妄に予防効果を認めるかを検討したRCT。
背景
小児の全身麻酔後覚醒時の興奮は機序不明(吸入麻酔薬は原因の一つである可能性)だが、小児全体の約2%、未就学児では30〜50%で発生するとされている。これにより一時的な換気困難や自傷・入院期間の延長を引き起こすだけでなく、術後の行動変容の可能性が1.43倍になるという報告もある。オピオイドやプロポフォール・ミダゾラムと比較してデクスメデトミジンは呼吸抑制の起こりにくさや覚醒の容易なことから、またエスケタミンはNMDA受容体抑制作用により小児の周術期使用に適していると考えられる。
方法
腹腔鏡手術を受ける1〜7歳までの小児102人に対して、気腹終了時にデクスメデトミジン1μg/kgまたはエスケタミン0.3mg/kg、もしくは生理食塩水を投与する群にランダムに振り分け、PAED scaleとFLACC scaleを用いて覚醒時興奮について評価した。
結果
それぞれの覚醒時興奮の発生率はデクスメデトミジン群(8.8%):エスケタミン群(11.8%):生理食塩水群(35.5%)であり有意に発生率の低下を認めた。(P=0.009)
3群間でPACU滞在時間に変化はなかった。回復時間と抜管までの時間はデクスメデトミジン群(40.88 ± 12.95 min, 42.50 ± 13.38 min)で、生理食塩水群(32.56 ± 13.05 min, 33.29 ± 11.30 min; P = 0.009, P = 0.010)より延長を認めた。
・デクスメデトミジンvs. 生理食塩水 相対リスク0.112 NNT2.13
・エスケタミンvs. 生理食塩水 相対リスク0.222 NNT2.43
副作用としての徐脈の最も高い発生率はデクスメデトミジン群(14.7%)で、次いでエスケタミン群(2.9%)、生理食塩水群での発生はなかった。いずれの群でも、呼吸抑制、低酸素血症、喉頭痙攣、吐き気、嘔吐、眠気は観察されなかった。
結論
小児の腹腔鏡下手術後に投与されたデクスメデトミジン1μg/kgとエスケタミン 0.3mg/kgはともに覚醒時興奮を減少しPACU滞在時間の延長も認めなかった。
抄読会での議論・コメント
・そもそもの鎮痛不足によるPAEDスケール増加であった可能性も考えられるが、その場合より厳密に覚醒時興奮の抑制を調べるためには、鎮痛作用のみの薬剤と鎮静作用のみの薬剤を比較する必要があるかもしれない。
・研究中の抜管は何かプロトコールのもとで行われたのか。
→自発呼吸・嚥下反射・一回換気量などのある程度統一された基準は論文中に記載があった
・覚醒時興奮予防のデクスメデトミジンは一般的に持続よりも単回使用が多いように感じるが、徐脈の発生率は使用法によって変化があるのか。また将来、全身麻酔中のデクスメデトミジン使用の保険適応がおりる可能性はあるか。
→過去の研究でもデクスメデトミジン単回使用の報告が多いが、まれに持続使用もある。徐脈の発生率に関してはおそらく有意差はない。保険適応に関しては不明。
・エスケタミンvs. デクスメデトミジンの効果比較は行われていないのか。
→当研究では行われていない。
・今回のプラクティスの意図とは少し異なるが、深麻酔下抜管時の喉頭痙攣予防にデクスメデトミジンが有用だと考える人もいる。同様の視点から言うと、デクスメデトミジンは鎮静度合いもその他の鎮静薬に比して比較的浅いので気道閉塞が起こるリスクも低いと言える。
文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 淡谷直希
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔