2024.11.19 麻酔科抄読会
担当 加藤 優
指導 柘植
論文
Karanicolas PJ et al. Tranexamic Acid in Patients Undergoing Liver Resection: The HeLiX Randomized Clinical Trial. JAMA. 2024 Oct 1;332(13):1080-1089.
背景
肝切除術における出血や輸血は術後合併症や癌の再発と関連があるとされている。トラネキサム酸はさまざまな手術において出血リスクを低減するとされるが、肝切除術における有効性や安全性については明確な結論が得られていない。
本研究では、「トラネキサム酸は肝切除術における輸血必要性を減少させるのか」という疑問に対し、無作為化二重盲検試験を実施した。
概要
- P: 癌に対して肝切除術を受ける成人患者
- I: トラネキサム酸群(麻酔導入後1gボーラス+8時間持続投与)
- C: 生理食塩水群(同様の方法で投与)
- O: 術後7日以内の赤血球輸血率(トラネキサム酸群16.3%、プラセボ群14.5%)。有意差は認められなかった。
結論
癌に対して肝切除術を受ける患者において、トラネキサム酸は出血や輸血を減少させる効果を示さず、むしろ周術期合併症の発生を増加させた。
抄読会での議論
本研究の結果が先行研究と異なる理由について以下の意見が挙げられた:
- 先行研究のトラネキサム酸群では手術時間が短く、それに伴い出血量が少なかった可能性がある。
- 大量出血や人工心肺の使用など、線溶系が亢進する状況ではトラネキサム酸の効果が顕著に現れる。しかし、本研究のように出血量が少ない場合、その効果が発揮されにくいのではないか。
本研究では術後合併症に関する詳細なデータが不足しており、トラネキサム酸の血栓リスクへの影響については依然として不明である。担癌患者や肥満患者に対しては、慎重な投与が求められる。
文責:亀田総合病院 麻酔科 専攻医 栁 俊文
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔