2024.11.28 麻酔科抄読会

担当:初期研修医 松原
指導:室内

Hypotension Prediction Index Is Equally Effective in Predicting Intraoperative Hypotension during Noncardiac Surgery Compared to a Mean Arterial Pressure Threshold: A Prospective Observational Study
Marijn P. Mulder, et al. Anesthesiology September 2024, Vol. 141, 453–462.
https://doi.org/10.1097/ALN.0000000000004990

P:18歳以上でかつ、全身麻酔下で侵襲的血圧モニタリングを必要とする中等度~高リスクの非心臓手術患者
I:Acumen Hypotension Prediction Index software(version 2.1)を適用し、低血圧予測指数(HPI)モニタリングを使用
C:MAP閾値による予測方法、線形外挿MAP、ΔMAP
O:低血圧の予測性能

今年9月にAnesthesiologyに掲載された、Edwards社が開発したHypotension Prediction Index(HPI)の術中低血圧の予測性能に関する論文。
術中低血圧の予測性能の観点で、平均動脈圧(MAP)閾値を72〜73mmHgとして術中管理を行えば、HPIによる予測と同等の精度で管理できる可能性が示唆された。

背景
低血圧予測指数(HPI)は、動脈圧波形の特徴を解析し、機械学習を用いて術中の低血圧を予測することを目的としたアルゴリズムである。しかし、最近の研究では、HPIの予測性能が平均動脈圧(MAP)そのものと高い相関を持つ可能性が示唆されている。

方法
この観察研究では、HPIを通常の術中モニタリングに追加し、中等度から高リスクの非心臓手術を受ける患者100人を対象に行われた。HPIが85を超えた際のアラームと、同時のさまざまなMAP閾値との関係を評価した。さらに、HPIによる管理とMAPに基づいた麻酔管理と、低血圧発生の5、10、15分前に低血圧を予測する性能を比較した。

結果
HPIのアラーム(85超え)とMAP閾値73 mmHgは97%の時間で一致した。また、MAP閾値72 mmHgは予測性能が最も類似していた。低血圧発生5分前の予測において、HPIの受信者動作特性曲線(ROC)下面積(AUC)は0.89であり、同時のMAPは0.88で、ほぼ同等であった。一方、線形外挿MAPやΔMAPの予測性能はこれらより劣っていた。HPIアラームの陽性的中率は31.9%、MAP閾値72 mmHgでは32.9%であった。

結論
臨床現場において、HPIのアラームはMAPに基づいた管理と非常に類似しており、機械学習アルゴリズムはMAP閾値72または73 mmHgに設定したアラームで代替可能であることが示唆される。今後の術中低血圧予測に関する研究では、MAPベースのアラームとの比較や、それが患者転帰に与える影響を検討する必要がある。

抄読会での議論

  • HPIとMAPの相関性について
    通常、麻酔管理中に血圧が低下した場合、昇圧薬を投与することで対応する。しかし、実際には一定の平均動脈圧(MAP)を下回ると低血圧が発生するリスクが高まるため、その前に予測的に昇圧する方法を取っていることも多い。本研究では、HPI(低血圧予測指数)のアラームがMAP 73 mmHgの閾値と強い相関を持つことが示された。
  • 低血圧予測のタイミングと臨床的な有用性
    本研究では、低血圧になる5分前にHPIが高値を示すことが確認された。これにより、5分の猶予が得られるかのように見えるが、5分の猶予は実際の臨床では非常に短いと考えられる。5分間で医療従事者がアラームを認識し、昇圧薬の投与や輸液を行い、血圧を改善するのは現実的には難しい。その結果、5分後には結局低血圧になってしまうリスクが高いという問題が指摘される。
  • 臨床的な有用性の限界
    非常に高価な機械でもあり、本研究の結果のみでは、HPIを臨床での意思決定に有効に活用するための具体的なメリットが不明である。

文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔