2024.10.10 麻酔科抄読会
担当:柘植
タイトル: Subomohyoid Anterior Suprascapular Block versus Interscalene Block for Arthroscopic Shoulder Surgery: A Multicenter Randomized Trial
著者: Faraj W. Abdallah et al.
目的: 肩手術後の痛み管理で標準的な斜角筋間ブロック(ISB)は、横隔神経麻痺による呼吸関連の合併症が課題となっているため、より低侵襲な前方肩甲上神経ブロック(SASB)を検討し、SASBがISBに対し非劣性であることを示すことを目的とした。
※前方肩甲上神経ブロックは、腕神経叢ブロックの斜角筋間アプローチと鎖骨上アプローチの間で、肩甲上神経が上神経管から分岐するところで穿刺するブロックである。
研究デザイン
多施設無作為化二重盲検非劣性試験で、肩関節鏡手術を受ける成人患者140名を対象にISBまたはSASBのいずれかを実施した。主要アウトカムは術後24時間の痛みスコアの曲線下面積で、副次アウトカムとして鎮痛剤消費量や上位神経幹(C5–C6)のブロック成功率、呼吸器合併症の発生頻度などが評価された。
- PICO
P (患者): 肩関節鏡手術を受ける成人
I (介入): 前方肩甲上神経ブロック(SASB)
C (比較): 斜角筋間ブロック(ISB)
O (アウトカム): 24時間の痛み管理効果および回復の質など
結果
- 主要アウトカム: SASBはISBに対し、術後24時間の痛み管理において非劣性であった。(90%CI -0.3 [-0.8, 0.2])
- 副次アウトカム: 上位神経幹(C5–C6)のブロック成功率、術後鎮痛剤の消費量や副作用などにも有意な差はなく、SASBはISBと同等の効果が確認された。斜角筋間アプローチで問題となる呼吸器合併症は今回は両群間で差が見られなかった。
考察
- 肩の手術での現時点で最も有効とされるブロック方法に関しては現時点で定まったものはないが、今回のスタディでは特に呼吸リスクのある患者に対してSASBの有用性が示された。
- 呼吸器合併症の発生に関して両群間で差が見られなかった理由には、局所麻酔薬の量や濃度も影響すると考えられた。
結論
前方肩甲上神経ブロック(SASB)は、斜角筋間ブロック(ISB)に対し非劣性であり、呼吸器系への負担が少ないため、特に呼吸リスクのある患者に適した選択肢となる可能性が示された。
文責:亀田総合病院 麻酔科 専攻医 光石
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔