2024.8.29 麻酔科抄読会
担当 初期研修医 川部 大志
指導 荻野 仁史
Effect of Ice Slush on Reducing the Oculocardiac Reflex During Strabismus Surgery
Xin Qi, MD, et al. Anesth Analg. 2023 Jan 1;136(1):79-85. DOI: 10.1213/ANE.0000000000006239
背景
斜視手術は小児領域でよく行われる手術の1つであるが、外眼筋が牽引されると眼球心臓反射(OCR)により循環器系に急激な変化が生じる。多くのOCRは軽度で一過性であり眼球の牽引の解除で回復するが、心停止に至ることもある。神経伝導速度と温度の間には直線的比例関係があり、低体温の時に圧受容体反射が抑制される。本研究では局所冷却を引き起こすIce Slush ( IS )による、斜視手術中のOCRの抑制効果を調べた。
方法
研究デザイン:前向き無作為二重盲検試験
P : 3歳から14歳までの共同性斜視と診断された患者
I : 手術前にISを眼表面に当てる
C : 手術前に常温の滅菌生理食塩水を眼表面に当てる
O : 斜視手術中のOCRの発生率と重症度
Primary outcome:
手術の全段階におけるOCRの発生率
Secondary outcome:
・手術の全段階における重度のOCR発生率
・手術の各段階におけるHRの変化
結果
58人の患者が研究に含まれ、無作為に均等にIS群と対照群に割り付けられた。Primary outcomeについては、IS群における全OCRの発生率は対照群より有意に低かった。( IS群; 19人/29人、62.5% [95% CI, 45.7–82.1]) 、対照群: 28人/29人、96.6% [95% CI, 82.2–99.9] )、 absolute risk difference: −31.0% [95% CI, −49.4 to −11.0]; Z test, P < .001 ) 。Secondary outcomeについては、重症のOCRの発生率はIS群で有意に低かった。IS群のOCR発生率はステージI ~ III期において対照群より有意に低く、IS群における手術中のベースラインからのHRの変化も、ステージI ~ IIIにおいて対照群よりも有意に低かった。
結論
ISは毛様体神経の温度を急速に低下させ、神経を部分的に麻痺させ、その後の感覚伝達を阻害していると考えら、ISによる局所低温はOCR予防に容易でかつ有望であると考えられる。ISにより小児の斜視手術の安全性を向上させることができる可能性がある。
抄読会での Discussion point
・IS を術中に複数回するのか? 単回なのか?
単回使用である。 斜視の手術では外直筋のみを触ることが多く、外直筋をターゲットにしており、外直筋を操作する前の単回のみ留置する。
・ISの臨床中の副作用の評価は?
術中、術後、特に副作用の報告はなかった。
・徐脈になった時にすぐに戻るのか、薬などが必要なのか?
徐脈になったら圧迫を解除したりアトロピンを投与する方針としていた。
(ただ今回は1例もアトロピンは入れていない。)
・盲検化されていても術者と用意する人が同じだと不十分では?
執刀医、麻酔科医ともに部屋にいない状態で看護師が1人で用意しているため盲検化はしっかりとされていた。
・冷やす効果の持続は?またこの手術時間は?
一般的には15~20分で1つの筋肉の手術は可能なので、この時間の手術内ではISの効果は維持されていそうだが、それ以上長い手術での効果の持続は不明である。
・術中の維持はプロポフォールと筋弛緩だったが、麻酔深度はどういうふうに調整されていたのか?
BISにて麻酔深度は管理されている。顔面の手術でありBISのノイズの可能性はあるが、BISのベースライン値を処置が始まる前の落ち着いた状態で取り、そこからの変化率で調整されていることや、手術は5〜10分の短時間で終了するものであることから、麻酔深度の急激なはないと考えられる。
・年齢による影響は?
母数が少なく今回の研究だけからは言えない。今後母数を増やして研究する必要がある。
・外来手術でも問題ないか?
術中、術後、副作用は特になく外来手術での実施に特に関連ないと考えられる。
文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 松本絵美
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔