2024.8.22 麻酔科抄読会

担当:初期研修医 山田
指導:山﨑

Baseline Intraoperative Left Ventricular Diastolic Function Is Associated with Postoperative Atrial Fibrillation after Cardiac Surgery
LQ Rong, et al. Anesthesiology. 2023 Nov 1;139(5):602-613

背景
術後心房細動(POAF)は、低リスクの心臓外科患者の20-30%に発生し、入院期間の延長や術後死亡率の上昇に関連している。一方、経食道心エコー(TEE)を用いたPOAFの評価はあまり研究されていない。本研究は左後方心膜切開に関するPALACS試験のサブ解析であり、TEEによって評価された心臓手術中の左心房および左室拡張能とPOAFとの関連を評価した。

方法
術中TEEデータが利用可能なPALACS患者(n = 402/420; 95.7%)が本研究の対象であった。術中の左房面積と左室拡張能、およびその術中の変化がPOAFとの関連を調べた。正常な左室拡張能は僧帽弁輪外側e’が10 cm/s以上とし、拡張能障害は僧帽弁輪外側e’が10 cm/s未満と定義した。E/e’や僧帽弁流入速度などを基準に、拡張能障害をGrade1~3に分類した。

結果
402人の患者のうち230人(57.2%)が術中に拡張能障害を有していた。402人の患者のうち99人(24.6%)がPOAFを発症した。POAFあり群はPOAFなし群と比較して、左室拡張能障害を有する割合が高かった(75.0% [n=161/303] vs. 57.5% [n=69/99]; P=0.004)。その他のパラメーターにおいて、Δ左房面積のみが、POAFなし群とPOAFあり群で有意に異なっていた(-2.1 cm² [IQR -5.1~1.0] vs. 0.1 [IQR -4.0~4.8]; P=0.028)。多変量解析では、術前に異常な左室拡張能(オッズ比2.02; 95% CI 1.15~3.63; P=0.016)および心膜切開(オッズ比0.46; 95% CI 0.27~0.78; P=0.004)のみが、POAFと独立して関連する共変量であった。

結論
TEEで評価された術前の左室拡張能障害は、POAFと関連している。心臓手術中に左室拡張能を最適化することで、POAFのリスクを減少させるかどうかを検証するためにさらなる研究が必要である。

Discussion
・カテコラミンの使用や輸液過多が心房細動と関連することが知られているが、この研究では術中および術後のカテコラミン・輸液に関するデータが言及されていない。
・今回のデータは術中TEEで得られたものであったが、術中TEEによる拡張能評価は麻酔による前負荷・後負荷の変化に左右されるため、臨床上の意義が問われる。むしろ術前検査時の心エコーとの関連がより重要である可能性がある。
・EFが低下している症例は拡張能も必ず低下しているが、今回の対象はEF正常な低リスク患者である。EF正常で拡張能低下の症例は基本的に高血圧などによる心肥大であり、それ自体が心房細動のリスク因子であることはすでに知られている。
・新たな知見を提示しているとも言い難いが、低リスク患者が対象にしたこの規模の研究は心臓麻酔領域ではビッグデータとも言え、評価されるべき部分である。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔