2024.6.27 麻酔科抄読会
担当:初期研修 大川 雄生
指導:劉 丹
Baseline Gastric Volume in Fasting Diabetic Patients Is Not Higher than That in Nondiabetic Patients: A Cross-sectional Noninferiority Study
Perlas et al., Anesthesiology. 2024 Apr 1;140(4):648-656.
糖尿病患者と非糖尿病患者の術前絶食時における胃内容量に関する非劣性試験
【サマリー】
背景
麻酔導入時を含めた周術期の胃内容物の誤嚥は重大な合併症につながるとされている。
特に糖尿病患者では自律神経失調症状の一つに消化管運動の低下があり、周術期の誤嚥のリスクが高いとされている。
本研究ではASAガイドラインに基づいた術前絶飲食後の糖尿病患者と非糖尿病患者の胃内容積を評価し、糖尿病による自律神経障害が胃内容積に与える影響を評価した。
方法
・ASAガイドラインに基づき術前絶飲食(飲水2時間、軽食6時間、食事8時間)
・手術当日の朝にベッドサイドで盲検化された麻酔科医がエコーで胃内容積の評価を行った
単施設(カナダトロント・ウェスタン病院)での前向き横断的非劣性研究(Noninferiority design)で、対象患者は18〜85歳のASA PS I~III、BMI < 40kg/m2の患者とした。
結果
対象患者は180人でそのうち、糖尿病患者84人、非糖尿病患者96人であった。
患者背景に関しては非糖尿病患者群で年齢とASA PSが統計学的有意差をもって低かった。
Primary Outcomeの胃内容積に関しては、糖尿病患者と非糖尿病患者で統計学的有意差は認めなかった。
Secondary Outcome(胃内容積の分布、full stomachの発生率、胃内容積の上限、胃内容積と糖尿病の罹病期間・Type1 or Type2、嘔吐・誤嚥の発生率)に関しても両群間で有意差を認めなかった。
結論
糖尿病患者と非糖尿病患者における術前絶飲食後の胃内容積は統計学的有意差を認めなかった。
Q:HbA1cが上昇するごとに胃内容積が減るという結果が出ていたが、その理由に関して何か言及はあったか。
A:直感的には糖尿病のコントロールが悪いほど自律神経症状が現れ、胃内容積が増えると考えられたが、本研究ではHbA1cが1%上昇するごとに胃内容積が0.03ml/kgという結果であった。理由に関しては本文中では特に記載がみられなかった
Q:フルストマックの基準値が提示されていたがその根拠は?
A:論文の執筆者が胃エコーについて複数論文を執筆しており、先行研究の値をもとに設定している。本研究でのフルストマックの割合が多かったのは、設定した基準値が影響している可能性がある。
Q:今回の研究での糖尿病の診断基準は?
A:基準に関しては明示されていなかった。自律神経障害を持った糖尿病患者の参加割合は少なく、実際に自律神経障害を持った患者を評価できているかは不明。また、実際の臨床の場で術前に自律神経障害の有無を評価するのは難しい可能性がある。
【総括】
本研究ではASAの術前絶飲食ガイドライン通りの絶飲食時間をあけたのちの、糖尿病患者と非糖尿病患者の胃内容積を比較した非劣性試験である。
研究結果からは糖尿病患者と非糖尿病患者間で統計学的有意差は認めなかたが、フルストマックと判定された患者の割合が多く、自律神経障害の自覚症状がない人でも実際にはフルストマックである、という可能性を示唆した研究ととらえることもできる。
亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 竹下 学
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔