2024.6.25 麻酔科抄読会

担当:初期研修医 江嵜
指導:河野

Combined Dexamethasone and Dexmedetomidine as Adjuncts to Popliteal and Saphenous Nerve Blocks in Patients Undergoing Surgery of the Foot or Ankle: A Randomized, Blinded, Placebo-controlled Clinical Trial
Maagaard et al., Anesthesiology. 2024 Jun 1;140(6):1165-1175.

PICO
P 足あるいは足首の手術で坐骨(膝窩)神経ブロックと伏在神経ブロックを施行される患者
I デキサメタゾンとデクスメデトミジンの静注併用or デキサメタゾンのみ静注
C プラセボ(生理食塩水)静注
O 鎮痛持続時間(ブロックしてから手術部位に初めて痛みを感じるまで)

Abstract
背景
デキサメタゾンとデクスメデトミジンはどちらも神経ブロックの鎮痛持続時間を増加させる。そこで、デキサメタゾンとデクスメデトミジンの静注を併用することで、デキサメタゾンのみ静注およびプラセボ静注と比較して、鎮痛持続時間が延長するという仮説を検証した

方法
全身麻酔で足あるいは足首の手術を受け、坐骨(膝窩)神経ブロックと伏在神経ブロックを施行される患者を、デキサメタゾン12mgとデクスメデトミジン1μg/kg静注併用群、デキサメタゾン12mg静注群、プラセボ(生理食塩水)静注群の3群に無作為に割り付けた。Primary outcomeは鎮痛持続時間であり、ブロック施行から患者が手術部位に初めて痛みを感じるまでの時間とした。鎮痛持続時間の33%の増加を、臨床的に有意差ありと定義した。

結果
2施設から合計120人の患者がランダム化され、Primary outcomeについて119人が解析された。鎮痛持続時間の中央値[四分位範囲]は、デキサメタゾンとデクスメデトミジン併用群で1572分[1259~1715]、デキサメタゾン単独群で1400分[1133~1750]、プラセボ群で870分[748~1138]であった。プラセボ群と比較して、デキサメタゾンとデクスメデトミジン併用群(差:564分、98.33%CI:301~794、P<0.001)およびデキサメタゾン単独(差:489 分、98.33%CI:265~706、P<0.001)群は鎮痛持続時間が長かった。これらの 差は、著者らが臨床的に有意な増加と定義した値を超えていた。一方、デキサメタゾンとデクスメデトミジン併用群は、デキサメタゾン単独群と比べ、鎮痛時間は同等(差:61分、98.33%CI:-222~331、P=0.614)であった。

結論
足あるいは足首の手術を受ける患者において、デキサメタゾンは、デクスメデトミジンの有無にかかわらず、坐骨神経ブロックと伏在神経ブロックの鎮痛持続時間を延長させた。デキサメタゾンにデクスメデトミジンを併用しても、デキサメタゾンのみの静注と比べ、鎮痛持続時間は延長しなかった。

Discussion point

  • 静注のデキサメタゾン12mgは自分たちが臨床で投与している感覚からすると多いように思えるが、どれくらいがコンセンサスか? ―先行研究では0.11mg/kg
  • デクスメデトミジンは半減期が短いことが特徴。この研究では単回投与であるが、持続静注をしたらまた違う結果が出るかもしれない。
  • Secondary outcomeの睡眠の質について。手術当日の夜は介入群の方がいずれもコントロール群より睡眠の質は高かった一方、手術翌日の夜はデキサメタゾン単独群よりもコントロール群の方が高かったとの結果が出ている。睡眠の質の評価は「いい眠りだったか」という漠然としたものであるし、デキサメタゾンには精神的な興奮作用があり投与量も多いため、痛みというよりもストロイドの作用自体が結果に影響している可能性がある。
  • デクスメデトミジンは末梢血管収縮作用が強い。Localにはエピネフリンのような作用がある。昔は同じα2受容体作動薬のクロニジンを硬膜外などに添加していて、よりselectiveになったものがデクスメデトミジンである。クロニジンの方が長時間作用型であるため、鎮痛持続時間を比較した今回の論文で短時間作用型のデクスメデトミジンをあえて使用した意義が微妙かもしれない。
  • デキサメタゾンに鎮痛持続時間延長効果があることは様々な研究で示されてきており、今回の研究でコントロール群を含めた3群比較にする必要があったのかは疑問が残る。2群比較の方がシンプルで解釈もしやすいという特徴があるため、サンプル数も少ないことを考慮すると2群比較だとまた違った結果が出たり結果の解析もしやすかったかもしれない。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 江村 薫乃

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔